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 少しばかり久し振りに結婚相談所からお見合いの話が舞い込み、波那は意気揚々と話を聞きに行く。この日も同じ相談員に当たり、今回は一般職女性を紹介される。

「ご病気のことは先方様にお伝えしたんです。それでも一度お会いしたいと仰って」

「そうですか……」

 取り敢えず仲介をお願いして休日に会ってみると、この女性波那が勤めている会社名に惹かれてアポイントを取ってきたようだった。

 彼女は結婚しても子供は要らない、家事は完全分業、仕事は続けたいので妻だけが両立なんて差別的だと主張した。家事が嫌なら僕がするのに……そう言いたが、目の前の女性の話はなかなか終わらない。

 更には年に一度は旅行がしたい、夫婦二人での生活を謳歌したいとのことで、男性にはそれなりの出世も望んでいる風だった。この方プロフィールちゃんと見てくださってるのかな? 波那は不安になって訊ねてみる。

「あの、僕が病気してるのはご存知ですよね?」

「えぇ、『今は』でしょう?」

 やっぱり……この女性には断られても構わない、波那は正直に話すことにした。

「僕は子供が欲しいです、奥さんが仕事とかを優先させたいのであれば育児や家事は僕が引き受けます。それに病気も持病ですから一生涯の問題です、残念ながら普通の男性のような生活は出来ません」

 それで波那への興味が一気に失せた女性は、後日持病を理由に断りを入れてきた。ここへ来て虚弱体質が仇となり、さすがに落ち込んだ波那は翌日熱を出して寝込んでしまう。休日だったのが幸いして何もせずひたすら睡眠を取っている。

 断られたことはどうでも良かったのだが、もしかして考えが甘かったのか? 結局は一般的な幸せを求めているのか?こういう時はろくな考えが浮かばず、何だか泣きたくなってくる。

「少しでも良いから食べなさい、空腹だとろくなこと考えないから」

 昼を少し過ぎた頃、早苗がお粥を持って部屋に入ってきた。正直あまり食欲はなかったが、体を起こして温かいお粥を体の中に入れた。

「少し休んだら? 婚活」

 珍しく落ち込んでいる波那に母は優しく声を掛ける。

「僕、結婚できないのかな?」

「何言ってんの、今焦ることないじゃない。あなたの場合、体の弱さも考慮してくれる方じゃないとね。だからゆっくり探しなさい、無理のない程度に」

 早苗は顔色の悪い息子の頬をさすって、今日はとにかく休みなさいと空になった食器を下げて部屋を出る。波那はすぐさまベッドに横になり、目を閉じて何も考えないよう体を休めることだけに意識を向けていた。


 翌日、波那は体調が戻ったので少し体を動かそうと母の家事仕事を手伝っていた。そこへケータイがブルブルと震え出し、画面を見ると先日助けてくれた津田からの着信だった。

『波那ちゃん、今日空いてる?』

「うん、空いてるよ」

『プロ野球観戦チケットが手に入ったから一緒に見に行かない?』

「良いよ」

 波那は三兄遼の影響でスポーツ観戦は好きなのでその誘いを受けることにし、津田の迎えで球場に向かう。

 この日観た野球の試合はいつもより楽しく感じられて、前日熱を出していたことなどすっかり忘れていた。こうした時間を楽しんでいると、結婚への憧れで始めたはずの婚活が、いつしか焦りを呼んでいたことに気付く。波那は球場に誘ってくれた津田に感謝し、しばらくは婚活を中断すると決めた。

「今日は凄く楽しかった、誘ってくれてありがとう」

 幼馴染みの感謝の言葉に津田は何故か顔を赤らめ、大袈裟だよと笑った。

「たまたま二枚譲ってもらっただけだから。でも楽しんでくれたのなら良かったよ」

 赤らんでいる頬もすぐ元に戻って、帰りも津田の車で家路に着いた。


 その甲斐あって不調を訴えていた体調も回復し、このところお見合いにかまけていたのを母と過ごす時間に充てることにした波那。この日は嫁ぎ先から十歳年上の長姉安藤千景アンドウチカゲと里佳子が遊びに来て、たまには母を休ませようと夕食は三人で作ることにする。

 夜になると仕事だった麗未も帰宅して、久し振りに母と姉たちとの団らんを楽しんでいた。

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