ー2ー
外回り先からそのまま直帰した波那は、お弁当箱を洗うためすぐ台所に入る。隣のリビングでは普段は職場の独身寮で生活をしている二歳年上の兄の
「ただいま、もう飲んでるの?」
身体的事情で酒が飲めない波那は、二人が早くもほろ酔いなのを見て肩をすくめる。
「お帰り、今日は早いな」
「うん、外回り先からそのまま帰ってきたから」
手際よく洗い物を終えると、やかんで湯を沸かし始める。
「とき兄ちゃん、それ全部丞尉に作らせたの?」
「その分もあるけど全部じゃないぞ」
それは買ってきたと並べられている料理をいくつか指して言った。
「ゴメンね丞尉、家でまでこんなことさせちゃって」
波那は来客である同級生に詫びたが、彼は料理好きなので全く気にしていない風だ。実際自宅でも父と男四人兄弟の五人家族で、嵯峨家の家事はほぼ一手に引き受けている。
「良いよ、買い物代は全部出してもらったんだ。波那も食べなよ」
その言葉に誘われて、着替えを済ませて一緒に食事を楽しむことにする。
「ところで波那、婚活始めたんだって?」
「うん」
波那はゆっくりと食事を摂りながら頷いたが、兄の表情は若干渋い。
「そんなに焦んなくて良いだろ?この家の男共誰も結婚してないんだからさ」
「焦ってる訳じゃないよ、出逢いの場を増やしただけ」
そうは言ってみたが、内心は一日でも早く結婚したいと思っている。時生にしてみると、三人の兄よりも先に結婚すると彼らが焦ってしまうのではないかと懸念していた。
長兄
「せめてしゅう兄かりょう兄が結婚してくれたら……」
「順番なんてどうでも良くない? 恋人も居ないのにそんなの気にしてるのとき兄だけだよ」
仕事から帰宅して早々麗未が三人の話に割って入り、缶ビール四本を両手に持って立っていた。
「「あーっ! それ全部飲むなっ!」」
それを見た時生と丞尉が抗議を始める。
「こんなのじゃ足りなぁい、後で買ってきて」
麗未は抗議など一切無視でビールを飲み、何の遠慮も無く食事を摂る。
「僕が行ってくるよ、ビールだけで良いの?」
波那の申し出に麗未は上機嫌になり、あんたは良い子だねぇと頭を撫でる。彼女は唯一下のきょうだいとなる波那にだけには甘く、虚弱体質のことを誰よりも気に掛けている。
「うん、つまみはこんだけあれば足りるよ、多分」
「ちょっと待てよ麗未、一人で食べる計算してるだろ?」
「え? 違うの?」
「だと思ったよ……」
丞尉は麗未にとっても同級生なので、ある程度お互いのことは熟知している。
「後でおばさんとも一緒に食べようと思って作り置きしてあるよ、足りなかったら勝手に食ってて」
「へ~い」
麗未はすっかり飲食モードでくつろいでおり、買い出しに立ち上がった二人を見送る。すると母
「商店街のガラポンで当てちゃって、二等賞」
早苗は重そうに荷物を下ろしており、ちょうど出掛けようと玄関にいた波那と丞尉も手伝っている。
「何当てたの?」
麗未も反応して覗きに来ると、缶ビール一ケースに満面の笑みを見せて早速中身を冷蔵庫に入れている。
「そんな時だけ早いんだから……まさか波那と丞尉君に買い物させようとしてたんじゃないでしょうね?」
母には完全に見透かされていたのだが、麗未は平然とそんなことしないよと首を振った。
「とき兄にお願いしたら波那が気を利かせてくれたの」
「そう、でもこれだけあれば今日は充分でしょ?」
「うん」
麗未は元いた所に戻って再びビールを飲み始める。買い出しに行かずに済んだ波那と丞尉もリビングに戻り、早苗も交えての夕食は波那の婚活話をネタに楽しいひとときとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます