第2話

 気まずそうに、目を逸らしたまま……。


 最後まで、虹は天音と目を合わせようとしなかった。


「失礼しました…」

天音は職員室を出た。鍵は顧問の先生に返した。


 なんとなく、気まずくて……。


 天音は入ったのとは反対の戸から職員室を出ていた。保健室とは反対方向にある戸で、勿論、虹の姿も無い。


 ほっとしたような、苦しいような……。


 居るわけがないのは分かっていたのに、天音は虹の姿が無い事に安心とそれを上回る不安を覚えた。

 虹に何かあったのは間違い無い。

 でも、それが何かわからない。何も、出来ない。天音は己の無力さを実感して、本当に苦い思いだった。


 ――何も無い。相変わらず、うるさいな。


 さっきの虹の言葉が頭の中で繰り返される。


 ――突き放された。

 そんな気がした。


 でも、優しい先輩を知っているから。


 今まで、何度もお世話になって来た。取材の中で、支えられたことが何度もあった。だから……。


 ――放って置くなんて出来なくて。


 天音は体の向きを変える。方向転換して――虹のもとに、急いで引き返した。


「先輩っ!」

なんで引き下がってしまったのだろう。天音は数分前の自分に問い掛けた。

 もっと、積極的に言えば、先輩も何か話してくれるかもしれない。

 天音はそう思っていた。

「私で良ければ、話を聞きますよ。何があったんですか?」

ダメだ、まだ受け身。こんな聞き方では、先輩は何も話してくれない。

 今の自分の台詞に、天音は思う。

「話したら、気が楽になるかも! 教えて下さいよ、聞きますから」

何度も支えられた先輩に、お返しがしたかった。

 ――それだけだった……。

「……」

虹は天音に無言で答えた。天音は、何か言おうと口を開いて――それ以上言葉が発せなくなった。

て置いてくれ」

突き放された。今度は、確実に。

「でも……」

「お前に話すことは、何もないッ」

「っ!」

虹の台詞に尚も言いつのろうとすると、虹が声を荒げた。思わず息を呑んだ天音に、


 ――続いたその言葉は追い打ちをかけ、最後の一撃となった。


「帰れッ」

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