第46話 後日談

「その史郎とかいう人、ロリコンだったんですよ」

 私は得意げに言ったが、先生は無反応だった。ちょっとは驚くと思ったのにな。


「続けて」

「箒ちゃんのお父さんと史郎は知り合いだったんでしょ?そして、二人は直接会ったこともある。そのとき二人は恋に落ちた」


 先生は私が淹れたコーヒーを不味そうにすすりながら、ただ黙って聞いている。


「そして考えた。一緒になりたいと。でも結婚できる年齢まで待つのは嫌だ。でも一緒にいたい。ならそこにいない人間になろうと思った」


 私は昨日ゲームをしながら考えた推理をすらすらと述べた。寝不足なのにそれが出来たのは、私がこういう探偵みたいなことが好きだからだろう。


「本当は死んだ人間になって、そのままでいようと思ったけど、先生が謎を解いてしまった。だから姿を現し、下山するふりをして屋敷に留まった。ロープウェイに史郎が乗るところを見ていないんでしょ?だったら、一回目に降りたゴンドラは空っぽか、家政婦さんしか乗ってなかったんです」

「なるほどね」


 先生はコーヒーに角砂糖を七個入れ、ミルクを三個入れた。そして一気に飲み干した。見ているだけで胃もたれする光景だった。


「まあ、憶測ですけどね。二人が仲睦まじく並んで見送っていた理由は、大体こういう感じで説明できると思います。そして結末まで箒ちゃんと家政婦さんは知らなかったと思います。一緒になるチャンスを作ると同時に、箒ちゃんに最高のショーを見せたんですよ。だから箒ちゃんは本気で嬉しがっていた」


 説明を終えた私はコーヒーが飲みたくなってキッチンに向かった。お気に入りのねこマグカップを出し、注いでからソファに戻った。


「それで動機は?」


 先生は座ったばかりの私にマグカップを渡した。おかわりの要求とともにされた質問に、私は首を傾げた。


「そこまでなら私も到達している。でもやはり、死んだ人間に成りすますなら理久くんを殺さなくたって出来る。医者の彼なら人間の血液やその他の材料を用意し、自分が殺されたように見せかけるなんて容易いだろう。箒ちゃんや葛さんがグルであるならなおさらだ。なのに殺した。死体は一つ確実に出ている。それを入れ替えるのは無理だろう」


 私は返答に困り、先生のおかわりを注ぎにキッチンに逃げた。


「やっぱり駄目だったか。でも、君は私と同じ推理をした。誇っていいよ」


 そんな声が聞こえた。私はコーヒーを注ぎ、砂糖を一つかみとミルクをたくさん入れ戻った。

 コーヒーを置き、私は唸った。


「どうした?」

「実は……、それも推理は出来ました……」

 私は苦笑いを浮かべた。気まずかったから。


「なぜそんなに言いづらそうなんだ?」

「百パーセント憶測ですし、ちょっと話しづらい真相ですから」


 私は目を逸らして、苦笑いを浮かべて頬を人差し指でぽりぽりと掻いた。


「話してみてくれ」

 先生は美味しそうにコーヒーを啜った。私は胃がむかむかするのを我慢しながら話した。


「理久くんは多分――自殺したんですよ」

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