第45話 事務所

 夜中に女の子が一人で歩いていると強姦されそうな薄暗いわき道を十五分ほど歩くと、先生の事務所がある。


 私はいつも通り、その恐ろしいわき道を通って、小さく壁にひびが入った三階建てのビルに入った。ローファーブーツが薄い金属製の階段に当たって甲高い音を響かせた。


 私はその音に紛れて欠伸をした。そして目を擦り、昨日はなんで夜更かししたんだっけなあ――と考え事をした。

 そしてオンラインゲーム中に煽られて、怒りに任せてプレイしたせいだと思い出し、自己嫌悪に襲われた。

 今日こそは早く寝よう、夜更かしするにしたって友達と長電話とかそういう女の子らしい理由で夜更かししようと決めた。


 階段とブーツでメロディを奏でて、三階まで上がり、ひび割れた曇りガラスのついたドアを開けた。

「うへぇ」

 部屋の散らかり具合に、また女の子らしくない反応をしてしまった。


 先生は窓際に置かれたデスクチェアに座り、足を延ばしてデスクにのせて眠っていた。先生はいつもこうして眠る。隣の部屋に寝室があり、三歩歩けばソファもあるのにこうして眠る。先生七不思議のひとつだ。


「先生、もう夕方の四時ですよ。起きてください」反応がない……屍にしてやろうか……。


 私はスクールカバンから大きなごみ袋を取り出し、ごみを片っ端から片付け始めた。空き缶が転がる音、茶色く変色したコンビニ弁当の白米に対する悲鳴、その他諸々の騒音が鳴っても、先生は起きなかった。


 私はごみ袋を三個生成し、廊下に投げて手をぱんぱんと払った。そしてごみの中に埋まっていた掃除機の電源を入れた。ちなみにごみの中にはルンバがあったけれど、一月ほど前から動かなくなっている。私はその出来事を『ロボットの反乱』と読んでいる。私はこのルンバが史上初のロボット三原則を破った存在だと思う。

 いつかこいつがスカイネットを使って人類を滅ぼすと思えてならない……。


 掃除を終えソファに座り、冷蔵庫からお茶を出して飲み、一息ついた。ちなみにこの事務所では開封済みのものを飲むと下痢を起こす。


 そして私は立ち上がり、先生の耳元でこう囁いた。

「謎が解けましたよ」

 先生は瞼を開け、口元の涎を拭って不気味に笑った。

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