第38話 努力
「お、目覚めたね」目が覚めると先生の顔がそこにあった。タクシーの中と同じく、先生に膝枕されていた。
私は上体を起こして屈辱的な状態を回復させた。
「先生、私は生きるために、どうすればいいのか分かりました」
理久くんのようになりたいと、自分の気持ちを知った。
「でも私にはきっと無理です。なりたいものになんて、なれるはずがありません」
弱々しく、私は弱音を吐いた。
「それはないよ。だって人はなりたい自分になれてしまうんだから。そんなことを言うのは、なってみたものが期待していたものとは違っているか、なりたいものがなんなのか、ちゃんと分かっていない奴の台詞だよ」
とんでもない理論だとは思ったけれど、先生のトンデモ学説は私に勇気をくれた。
「じゃあ私は、ちゃんと生きることにします。目の前の死がなんのためにあるのか、いつか必ず答えを見つけます」
そういう生き方をしようと決めた。
それに意味がなくたって、もう逃げ続けるのはたくさんだ。そろそろ、生きることを始めよう。
「実はね、犯人なら既に目星はついているんだ」
先生はそんな爆弾発言をすると不敵に笑った。
「でもその人物には第三の殺人は不可能なんだ。だから私も困っていてね」
私はそれを聞いて、先生の推理がどこまで進んでいるのか分かってしまった。
「少し時間を頂けませんか?私もそこまで分かってから、先生の話を聞きたいです」
教師の力を借りてしまえば、生徒はなんでもできてしまう。けれど、それでは意味がない。監督は本番にはベンチで座って見ているものだ。教師は生徒の頑張りを、見守ってくれるものだ。
「一時間でちゃんと理解します」
私は部屋を出て、理久くんの部屋に向かった。最初の事件は凄惨すぎてよく見ていなかった。だからきっとあの場には見落としたものがあるはずだ。
そしてそれはあった。理久くんの部屋にちゃんとあった。いや、無かったという方が正確だろうか。
理久くんの部屋には、理久くんの遺体がなかった。
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