第37話 頭中
『舞ちゃんはどう思った?俺の死体を見て』
目の前の理久くんは私にそう問う。今はもうそうやって話すこともない彼が、私に聞いた。私の抱く罪悪感がこれを見せているのだろうか?
しかし理久くんは、私を責めている様子はなかった。彼はただあの夜のように、年上に質問しているだけだった。
「どうだろう……。なにも感じなかったかな。だって、人が死ぬことは、私にとってありふれているものだから」
この場での私は正直だった。想像の中だって分かっているからだろうか。
『そっか』理久くんは戸惑いを感じさせる笑みをした。
「でも、多分、可哀想だと思った」
私は呟くように言った。こういう言葉は好きじゃないから。上から目線の同情のようで、嫌いだった。
『どうして?舞ちゃんにとっては死体を見るなんて、日常に等しいんでしょ?まさかその度に可哀想だと思っているの?』
嘲笑うように言う彼は、生前とは違っていた。やはりこれは私の頭の中で行われている会話なのだろう。
「思ってないよ。私はそんな風にちゃんとしてないから」
『だったらなんで、会ったばかりの俺のことを、可哀想なんて思ったの?』
分からなかった。でもすぐに気づいた。理久くんの姿を見て理解してしまった。
「君が私より、ちゃんとした人間だったからだよ。尊敬しちゃうくらい、君は凄い子だったから。死んでしまったとき、喪失感が私を襲った」
私はあの日、目の前の死に正面から向き合う彼に、憧れを抱いたんだ。
『そんなことを言ってもらえる人間じゃないよ、俺は。でも、ありがとう』
そう言うと理久くんは消えて、私だけが残った。私が答えを見つけたから、消えてしまったのだろう。
私は目を開き、現実に戻った。
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