第35話 現実

 目が覚めたとき、窓に近づいて外を見ると雨が上がっていた。


 そして、自分が死んでいないことに愕然とした。

 私が動いたことに気づいて、先生も目を覚ました。豪快な欠伸をして、目やにを取っている。


 そして葛さんが起きて箒ちゃんを優しく揺さぶって起こしていた。


「あれ、真理さんは?」先生が辺りを見渡してそう言った。

 私は外の庭を眺めた。


 真理さんが倒れていた。頭から血を流していた。


 雨は小ぶりとなっていた。私と先生は傘を借りて庭に出た。

 真理さんは仰向けに倒れていて、頭から血を流していた。しかしその出血も既に収まっていて、赤黒く変色していた。


 顔は青白くなり、見開いている瞳は瞳孔が拡大していた。


「死んでいるね」先生は飄々と呟いた。


 跪き真理さんの瞼をそっと閉じてやった。


「おそらく二階から飛んだこの状況から察するに、誰かに落とされたんだろうね」


 真理さんは仰向けに倒れている。傷も背中と後頭部に出来ている。背中から落ちたと推理できる。だから落とされたのは間違えないだろう。


 その時雨が上がって、雲の切れ目から朝日が差し込んだ。その光は先生と真理さんの遺体を照らした。暖かな光に包まれた先生は言った。


「さて、もう帰れるよ。どうする?」


 私は目の前が真っ暗になった。息ができない。息ができない。


 息の仕方が――分からない……。


 先生の声が淀んで聞こえる。なんと言っているのか分からなかった。私の頭にはもう、生きるという選択肢がなかった。


 そして倒れこみ、水に濡れた芝生が顔にあたった。じわじわと寝間着に吸い込まれていく水分は、心地悪い感触を生み、私の意識を泥沼に沈めていった。

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