第30話 再び
大広間に行くと箒ちゃんがお茶を飲んでいた。こうしてみると本当にお人形のように可愛らしいお嬢様だった。
「あら舞様。なにかありましたか?」そして可愛らしくにっこりと微笑む様は、この惨劇を楽しむような人間には見えなかった。
「なにもないよ箒ちゃん。ただぶらぶらしているだけだよ」
「そうですか。よかったらご一緒しませんか?」
私がその誘いを受けようとしたとき、玄関のほうから大きな音がした。
それは――人が倒れたような音だった。
私と箒ちゃんは走って玄関に向かった。
玄関にはびしょ濡れになった史郎さんが倒れていた。苦しそうで息も絶え絶えになっていた。
「大丈夫ですか?」私は駆け寄って跪き史郎さんの肩を支えた。
「ああ、大丈夫です。ちょっと足を捻ってしまって、このざまです」
体はびっしょりと濡れ、体温は低く体がぶるぶると震えていた。
とりあえず私は史郎さんの体を支えて大広間に連れて行った。すぐに葛さんが温かいお茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」史郎さんは体を小刻みに震えさせ、唇も真っ青になっている。
史郎さんはそのあと、経緯をその場にいた箒ちゃんと葛さんに話した。
「まあ史郎さんたら、私に黙ってそんなことをするなんて」
箒ちゃんはそれを聞いてなにやらぷりぷりと怒っている。怒っている姿は可愛らしく、子供らしかった。
その後騒ぎを聞きつけた真理さんが車椅子に乗ってやってきた。
「なにかあったの?」私は真理さんに経緯を説明した。真理さんは溜息をついた。史郎さんの無謀な挑戦に呆れてしまったようだ。
葛さんが救急箱を持ってきて、史郎さんの左足首にテーピングを施した。この人は本当になんでもできるんだなと、感心して嫉妬した。料理も家事も真面にできない私にとって、葛さんは完璧な女性に見えた。
先生以外の全員が揃ったところで、葛さんが「少し早いですがお夕飯にしましょう。メニューはシチューですから、体もあったまると思いますよ」と提案した。
史郎さんは着替えて来ると言った。葛さんが肩を貸し、やっとのことで大広間を出て行った。
残された私たちは円卓につき、三人を待った。
程なくして先生と葛さんが来た。先生は呑気に欠伸をしている。多分今までずっと寝ていたんだろう。けれど史郎さんは何分経っても戻ってこなかった。
「遅いわね、彼」真理さんがそう言うと、大広間の空気が凍り付いた。
「私が確認してこよう」先生がそう言って席を立った。
「いや、それはまずいんじゃないかしら。容疑者であるあなたが一人で行動するというのは」
真理さんの言葉は冷たくて、場はさっきよりも凍り付いた。
「じゃあ、私が行きます」空気の悪さに耐え兼ねた私は、逃げるように大広間を後にした。
二階に上がり、史郎さんの部屋へ向かった。ドアの前に立ち、ノックした。けれど反応がない。
悪寒が走った。寒気がして、鳥肌がたった。私は手を握って強くドアを叩いた。
「史郎さん!」
叫んでみたが反応は無い。私はドアノブに触れた。鍵はかかっておらずあっさりと開いた。
史郎さんはばらばらにされて死んでいた。
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