第23話 相談
先生と史郎さんはそのまま今後のことを話し合っている。真理さんは部屋に戻った。私も部屋に戻り、ベッドに横になって、天井を見つめ呆然としていた。
結局、私はいつもと変わらずその後のことは人に任せ、この殺人に関わることを拒否している。
涙一つ流せないのに、心ひとつ壊せないのに、疲弊している。
何一つできないくせに、何もできないことに罪悪感を覚えている。
「理久くん、私は君が死んでしまったのに、自分のことばっかりだよ……」
気がつくと理久くんが死んでしまったことよりも、自分のことを考えている。自分の不幸ばかりを棚に上げて、死んでしまった人に対する敬意を失っている。
私の感覚は、多くの死を前に麻痺してしまって、死という概念そのものが当たり前になってしまっている。次第に私は、人として大切な何かを、消失しているんだと思う。
「今大丈夫かな?」先生が突然ドアを開けて入ってきた。
「なんですか?」私の口調は自然と冷たいものになっていた。色んなことで気持ちが落ち込んでしまったからだ。
「今後のことを決めてきたよ。とりあえずは皆部屋で待機だ。雨が上がるかロープウェイの電力が戻るかしたら、下山して警察を呼ぶ。箒ちゃんはぶーぶー文句を言っていたがね」
先生は微笑みを混ぜて、淡々と告げた。
「それだけですか?」
自分の言った言葉に自分で驚いていた。自分がなんと言ったのか、一瞬分からなかった。
「そう言われてもね。これ以上のことはできないよ。探偵役が死んでしまったからね、できることはなにもない」
先生は「また何か決まったら伝えに来る」と言った。
「先生……、私は、どうしたらいいんですか……」口から出たのは悲鳴だった。
あまりに弱いそれは、私ができる精一杯の抵抗だった。私の心はもう限界で、ひび割れた器のように水を零さないので精一杯の状態だった。
「その答えはきっと、既に君の中にあるはずだよ」
先生はあっさりとそんなことを言った。いつもより優しい微笑みを浮かべていた。
「君はもう今まで散々考えて、苦労してきた。だからきっと、もう答えはみえているはずだ。けれど臆病な君はその答えを実行する勇気がないんだよ。いや、億劫な君はそれを実行することに躊躇しているのかな」
答え、と聞いて思い浮かべるのは理久くんだった。私と同じように死に出会い、それを解決して生きていた少年だった。
「私は君に生きろと言った。だから生きられればなんだって構わない。つまり何もしなくたっていいと思っている。けれど君がどうにかしたいと言うのなら、やってみてもいいと思うよ」
先生は無責任な励ましを残して、部屋から出て行ってしまった
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