第22話 糾弾
「泣くこともできないのなら――笑え」
昔、中学生の頃だったと思うけれど、私にそんな苦言を呈した人がいた。はたしてそれが同級生だったのか、はたまた現場に居合わせただけの大人だったのかは定かではない。
けれどその人物は私の境遇を理解していたようだから、たぶん知り合いだったんだろう。
「お前は目の前で死んでしまった人を前にして、悲しむことも出来ないのか……。なんて哀れで醜く、どうしようもないんだ」
その人は怒りの形相で私を睨み、凄んだ目つきで言葉を放っていた。
「ならばせめて笑え。悲しむことができないのなら、この状況を喜んで見せろ。そんな狂人になってみせろ。じゃなきゃ、お前の前で死んだ奴は無駄死にだ」
結局私はそんな狂人にはなれず、理久くんのような死者に救いの手を差し伸べることも出来ず、悲しむことで成長することもなく、ただ漠然と生きてしまった。
目の前の死を、無駄にして生きてきた。
でも私はきっと、そんなに苦しんではいないのだと思う。だって、私に苦言を呈したその人も、死んでしまったのだから。
死人に口がないのなら、死人が残した言葉にだって効力はない。怒られないのなら、私は気にしない。それくらい、私の感情は薄れてしまっている。
でもやっぱり、自分が目の前で死んでいく人たちに、何もしてあげられないというのはとても辛い。
私は狂人にはなれなかったし、他人の死なんてどうでもいいという冷たい人間にもなれなかったんだ。
中途半端に悲しんで、中途半端に苦しみ続ける。絶対的な不幸を与えられながら、そこから這い上がる気概さえ持っていない。
だから死んでしまったほうがよかった。そのほうがずっと楽だった。
先生の言葉さえなければ、私はとっくに死んでいた。死ねていたんだ……。
自分を生かしてくれた人にさえ、私は感謝出来ない。
本当に哀れで醜くどうしようもないと、自分でも思う。
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