第14話 過去 

 私の最初の記憶は、父親の死から始まる。


 確か三歳の頃、父は歩道に突っ込んできたトラックに轢かれてばらばらになった。たくさんの血と肉をまき散らしながら死んでいった。母親が私のことを守ろうとして、強く抱きしめてくれた。


 そして、それから約一年後に母親も死んだ。二人で出かけていた時、通り魔に心臓を刺されて死んだ。

 私は親戚の家に転がり込んだが、その後何度も違う親戚の家にお世話になった。私の面倒を見てくれた人たちは、ことごとく死んでしまったからだ。


 それは事故だったり、殺人だったり、自殺だったりしたわけだが、全て私の目の前で起きた。

 馬鹿な私も中学生になる頃には気づいていた。全て私のせいなのだと。

 私は人を死に導く。誰かが言ったそんな言葉を、私はずっと覚えている。誰に言われたのかは忘れてしまったのに――。


 自分のことを理解した中学生の頃、もう一つ気づいたことがあった。私は生まれる世界を間違えたのだ。

 私はきっと、推理小説の中に生まれるべきだった。

 目の前の死とその謎に歓喜し、涼しい顔で事件を解決する探偵になるべきだった。そうしていれば、それができていれば、もう少し真面に生きられたはずだった。

 でも私には無理だった。


 目の前の死に、目の前の人々に、真っすぐ向き合えない私には無理なことだった。

 人の死の瞬間を、見て、見すぎて、私はもう限界になっていた。

 そうして、何も感じなくなってしまえればどれだけよかっただろう。最近流行の漫画みたいに、サイコパスを気取って、こんなものどうってことないと言い張れればどれだけ――。

 でもそんなことは、平凡な私には土台無理な話だった。


 人の死は醜く、恐ろしく、どうしようもないくらい、私の許容範囲を超えてしまっている。

 私は物語の主人公に成りそこなった。そんな私には、生きる価値も、意味もない。


 だから高校生の頃、死にたいと、消えたいと思った。

 なのに、先生がそれを止めた。

 先生はどうして、私を生かしたんだろう?

 きっと、そんな謎も解けない私はやっぱり、探偵には向いていないんだろうな。

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