5-1.「春」の服装①

 正月一日は、女院もきちんと糊で光沢を出した御衣、張り袴、表着、小袿、さらに重なる単などの正装をお召しになっています。女房や、位の低い者もみな、より荘厳な正装である衣を身に付け、一日の日は襲は紅梅、紅の美しさなどのような色で彩られています。


 二日には、特に服飾を仕立てていないような方は、大晦日の日に仕立てて納めたものを、一日の日の夜になったときにいただき、綿を縫い付けて着ます。大晦日の調進は、宿直としてその日勤めて、裁縫の技術を持っている方々が、絹五疋と綿百斤をいただいて拵えてから、そのときは裳や唐衣は揃えずに大晦日に献上します。それと同じくして「地方の国司が二十組献上いたします」などと言って織られた唐衣や、白腰の裳を揃えて元日の夜に献上すると、禁色の着用を許された上﨟はそのまま着ます。尼などは、唐衣は手元に残して着ないで、一月三日に御薬を献上する儀式で訪れる女官などに与えたりします。三が日の三日は、仕立てた衣や調度品は元日と同じであり、桜色、山吹色、萌黄色などを中心に衣を合わせます。


 三が日の間、女院は院の宮廷である法住寺殿へとお出ましになり、女房たちは端の畳に、南に女院がいらっしゃるよう、調理場と部屋を仕切る幕の際まで、畳二畳に三人ほどで、着ている衣の褄が重なり合うほどに犇めいて座り、御歯固めの儀式のための食事や、朝御飯が運ばれてくるのを取り次ぎます。片手で御膳を受け取り、もう片方の手に私、隣にいる女房に手渡し、それを繰り返して、女院のお近くで給仕をする女官へと次々に取り次いでいきます。また、この法住寺殿ではなく、院の御所である七条殿にては、昼の御座にて、年賀の儀式を執り行って、そのまま同じように御膳が運ばれます。


 とても狭い空間の中で、西の対まで女房や上﨟がいる限り座って並び、また、障子のところまでは中﨟が御膳を持って参ります。配膳になると、調理場の表裏に中﨟・下﨟が二十人ほど居並び、座っています。

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