4.局の中~初出仕・建春門院との出会い

 人の局から、声をかけて、他の女房と誘い合わせて参上する方などは一人もおりません。下﨟の女房までも親が寄り添い、大切に世話をする人もいて、局の出入りに関しては容易であり、局の中まで他の人に劣るまいとして、風流を好んで振る舞うので、物足りないことはありません。

親子、姉妹以外で、人の局の中まで上がりこむ人は一人もいません。上童や雑仕などのお手伝いは、二人もいれば多かったが、一人もいないということは思いもしなかった。中でも堀川殿は女房たちの監督にあたる方で、朝から夕方までお仕えしていたが、つい昨日とか、今日から出仕していた人のように局の中まで美しく飾り立てていて、最後までその態度を貫き通したものです。


                *


 私が十二になった年、女院が後白河院の后になられるだろうと、人々が女院に伴われて参上した際、女院の実質の母君も、名目上の母君も、何とかと話し合って決めなさったそうだが、私も参内することになったのです。

 突然のことで本意ではないながら飾りたてられましたが、なんだかぼうっとしてしまったまま宮中に参上したところ、衛門佐という、親しみを寄せている方が車から降りるのを手助けしてくださったり、姉である京極殿も宮中にて待ち受けておられたのです。

 明かりを灯し、眉作りなどをしているときに、常陸という方がこちらに来ました。その方もまだ十四と若く、萌葱色と白の糸で編んだ肌着で、上に文様を摺り出した衣服を着て、広い帯をかけていました。「早く上りお上がりなさい」と言ったので、姉上を伴って参上しました。

 

 私を迎えに来てくれたのは三河という方でした。白く肥えて、うら若く、萌葱色が映える紫がかった赤色の薄い上衣を着て「紙燭です。お迎えに上がりました」と言って来ました。どこかにあるのだろうか、私の居場所といって案内してもらったが、そこで姉上が「あぁ、残念ね。思ったよりも早く夜が来てしまったわ。今宵のうちには、女院には会えないでしょうね」と言って座っていたところ、また姉上が「あら、幸運だわ。女御がお出ましになられた」と言いました。すると、障子からこちらをご覧になっていたのでしょうか、私には聞き知らないお声で女御は「あら、いたいけだこと。こんなに幼いうちに出仕したんじゃ、お父上もさぞ悲しがっていらっしゃるでしょうね」と仰った。

 姉上は「昨晩も、伴って参りましたの。一人一人、皆様にお目をかけてください」と、本当は今日初めて宮中に参上したのに、取り次いで言ってくれました。

 

 すると、女御は「本来ならば、女院は直々にお会いしてくださるのだけれど、今は余りにもくつろいだお姿でいらっしゃるのよ。ちょっとお待ちなさいな」と仰ったと思うと、小さな御几帳を取り寄せてくださいました。

 私がその御几帳の綻びから向こうを覗いていると、女院の御顔がその綻びにふと現れなさいました。隙間から見えるその御顔を目の当たりにすると、自然と慎ましくなり、恐れ多い心地のみが心に押し寄せてくるのです。ただ、どうしていいかわからなくなるような幼心の中でも「あぁ、なんて可愛らしいの。この世界には、こんなにも可愛らしいお方がいらっしゃったのね」と、一目見ただけでお慕い申し上げるようになったのです。

 

 その夜は宮中から出て、再び四月に参上しました。お后様の御身の周りは何事よりも荘厳であり、装いはとりわけ限りなくお美しいのだけれど、それに引き換えその頃の私など、幼く、弱々しい心を持ったままだったので、ますますおっとりとして聡明さに欠け、見るべきことも見ず、他の方の声も聞くまいと思っていたので、一体辺りに目を配ることができましょう。

 日中の御座の御帳の前に、造花の八重桜で飾られた一間で、瑠璃色の甕も設えられているのであり、女院の御座にはこのような調度品がいつもあるのだろうか、と思うと、私という身がとても不釣り合いな存在のように思えてなりません。

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