拡散すると強くなります  #勇者

ちびまるフォイ

勇者あきらめないもん

「ムダだムダだ! 光の玉なくして、我を倒そうなどと!」


「ぐあああ!!」


魔王城での最終決戦。

勇者は奮戦むなしく魔王にやられてベースキャンプまで担ぎ込まれた。


「くそ……なんてことだ……。

 やっぱり光の玉がないとダメなのか……!」


あまりの悔しさに地面をこぶしで叩いた。

それでも、フリマアプリで売った光の玉が戻る事はない。


八方ふさがりになった勇者は、なんでも屋さんへと足を運んだ。


「いらっしゃいませ。なんでも屋へようこそ」


「店主、聞くとここはどんなものでも売っているそうだな」


「ええ、世界中どこでも売っている品々から

 ちょっとマニアックな商品、さらには仲間から感情も売ってます」


「最強の武器が欲しい」


「なるほど、武器ですか。もちろん、取り揃えておりますよ」


店主は店の奥に引っ込んだ後、かぼそい剣を持ってきた。


「おい、店主。なんのつもりだ。俺は最強の剣といったはずだ。

 こんな枝みたいなしょぼい剣じゃない」


「いえいえ、めっそうもない。これこそ最強の剣ですよ。

 言葉はは物にもなる、という言葉を聞いたことはありますか?」


「え? ああ、まあ」


「それを剣の形にしたものです」

「物理的に!?」


「連動しているアプリでのその時のコメント拡散数が多いほど、

 この剣の威力はリアルタイムで強くなっていきます。

 今はコメントがないのでこんなですが

 際限なく強くなれる剣……まさに最強ですね」


「むぅ……買った」


SNSブレードを買った勇者はさっそく連動アプリを使ってこのことを報告した。


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SNS勇者@hero

世界を救うためにSNSブレードを購入


拡散数で強くなるので、このコメントを拡散よろしく

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「これでよし、と」


この日から、勇者は定期的に日常のあれこれをコメントしたり

ときに自分の考えを書いたり、ポエミーな内容を書いたりした。


しかし、肝心のSNSブレードはまったく変わっていない。


「くっそ……誰も拡散しないから

 SNSブレードも全然変わっちゃいないぞ」


それどころか、ドヤ顔で「そんな剣買うくらいならレベルあげろ」とか

身も蓋も思いやりもないコメントまで送られてくる。


これではSNSブレードの完成よりも勇者のメンタルが先に壊れてしまう。


「どうせ嫌われてるなら、いっそ炎上させてやる!!

 世界を救っちまえば正義になるんだ! うぉぉ!!」


勇者は「こういう勇者は○○」とか決めつける内容を書いたり、

王様の政治についてあれこれ文句つけたり、モンスター虐待などを投稿した。


「やった! フォロワーめっちゃ増え……あれ?」


炎上のかいあってフォロワー数は増えに増えた。

SNSブレードは幅広の頼りがいがありそうな見た目になったが、

持ち上げてみると紙パックよりも軽くてふにゃふにゃ。


「なんだこれ!? こんなんじゃいくら切れ味良くてもダメだよ!!」


どういうことかと取り扱い説明書を読んでみると、

あくまでもフォロワー数で形が変容し、言葉の力で中身が満たされる、

とかそれっぽいことが書いてある。


「つまり……拡散はされたものの

 コメントの中身がスッカスカだからダメだったのか……」


勇者は炎上を利用して手っ取り早く人を集めるのをやめた。


ちゃんと読んだ人に何か身になるようなものをと、

これから異世界に来る人へのアドバイスを書いたり

さも賢そうなことを書いたりして少しずつ人を増やしていった。


フォロワーを増やし土台を作り、

コメントを書けば一定の拡散数が見込めるように……。



その一方、魔王城は完全な祝賀ムードだった。


「ハハハハ。勇者があんなにもあっけないものとはな。

 歴代の魔王がどうして負けたのかまったくわからないぞ」


「魔王様! 魔王様たいへんです!」

「なんだ騒々しい」


「こちらを見てください!!」


手下の持ってきた画面には勇者のSNSが開かれていた。

画像には、恐ろしく磨き抜かれたSNSブレードが映っている。



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SNS勇者@hero

みなさんのおかげでSNSブレードが完成しました


今度こそ世界を救ってきます

応援よろしくお願いします


#勇者 #魔王攻略 #魔王は外にさっと塗るタイプ

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「あの野郎……勝手なハッシュタグつけやがって……!」


「しかし、どうするんですか、魔王様。

 聞けば完成されたSNSブレードは一振りで山をも両断し

 50年連れ添った夫婦愛をも断斬するそうですよ」


「光の玉を持っていない勇者に負けることなど……」

「いやいや、強引にぶった切られますって」


「おい! 魔王蔵から最強の防具を引っ張り出して来い!」


「しかし、魔王様。あれは魔王様のお母さまが買ってきたものの

 そのデザインと正面にプリントされた「I love BANANA」の文字が

 恥ずかしくってもう着ないとおっしゃって――」


「命あってのものだねだ! さっさと出して来い!」


魔王は城にあるすべての最高防具を取りそろえた。

威厳もかっこよさもプライドもかなぐり捨てたフルア―マー魔王になった。


「ククク。いかなSNSブレードを持っていたとしても、

 これだけのフル装備の我に勝とうなど……」


「魔王様、勇者のやつがSNSで

 今の魔王様の防具を豆腐のようにみじん切りする動画をあげてます」


「うそぉ!?」


最強の矛vs最強の盾の対決になると思っていた。

しかし、動画の中ではSNSブレードの刃をするりと飲み込む様子が映っていた。


いまや天気のことを書くだけでも爆発的に拡散されて、

SNSブレードは一瞬で完成形へと到達してしまう。


「ば、バカな……!」


「魔王様!! もう勇者がすぐそこまで来ています!!」


SNSブレードをもった勇者が乗り込んできた。

その顔には「常勝必至」の文字が浮かんでいる。


「クク、ククク……ゆゆゆゆゆ、勇者よ……懲りずにまた来たようだな……」


「それが最後の言葉か? では切らせてもらう」


勇者はSNSブレードを抜いて、コメントを書いた。


 ・

 ・

 ・


その後、勇者はふたたびなんでも屋にやってきた。


「いらっしゃいませ。おや、これは有名人の勇者さん。

 聞きましたよ、魔王に負けちゃったんですって?

 SNSブレードを完成させたのに驚きましたよ」


「ああ……」


「今度はなにをご所望ですか?ここは何でも屋。

 最高の防具に、最高の回復アイテム、最高に頼りになる仲間。

 なんでも取り揃えておりますよ、勇者様」


「そうだな……」





「どんなに通信環境の悪い所でも、

 確実にSNSにアクセスできるようなルーターってあるか?」

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