第141話 色々あった終わりに

 ふと僕は思い出す。

「そう言えば会長、何か言いたげでしたよね。春日野に対して」


「もういいのです。颯人のおかげで秋良も自分の答が出せましたから、必要は無くなったのです」


 何だろう。


「何を言うつもりだったんですか?」

「またしばらく秘密にしておくのですよ。女は秘密が多い方が魅力的なのです」


「凄い台詞ですね」

「言ってみたかったのです」


 でもその秘密って何だろうな。

 今はまだ話してくれそうにないけれど。


「何はともあれ、今回上手く行ったのは色々な人の協力のおかげなのです。例えばあの部屋を開けておいたのは実行委員会のおかげ。秋良に飲ませた魔法薬も楓の他、舞香と澪に事情を話してお願いしたのです。

 他にも私がこうやって動いているのを承知の上で、先生や先輩方を抑えていてくれた人もいるのです」


 副学園長だな、きっと。


「そんな訳で今回の合宿もなかなか有意義なものだったのです。あとは最後の後始末だけなのです」


 後始末……?


「イチャイチャモードに入った楓と颯人、イチャイチャモードに入りそうな杏と秋良をどう引き離して、正樹と一緒に男子寮に送還するかなのです」


 うーん……

 それはなかなか、色々と大変というか……

 そう思った時だ。


「無断外泊は停学ですよね、確か」


 第三の声がした。

 この声は歩美さんだ。

 そして歩美さんの役職は、生徒会長。


「げっ、歩美」


 会長はわざとらしく歩美さんが来た非常階段の方を振り向く。


「学級委員とその他有志がそれぞれの場所に急行中です。場所は2階事務室奥の部屋と1階の元運転手部屋。それとここですね。

 取り敢えず無断外泊3人と幇助犯1人は身柄を確保して、私物と共に車で学校送りです。足柄副学園長と藤沢先生も待機していますわ」


 おい。

 僕は巻き込まれただけなんだ。

 そう言っても通用はしないだろう。

 なにせ現行犯だ。


「ちなみに幇助犯1人とは誰なのですか」


 歩美さんは無言で指をさす。

 勿論指の先は会長だ。


「いたぞ!捕まえろ!」

 何やら非常階段方向から声がした。


「まずい、逃げるのですよ」

「今更ですか」

 僕の問いに会長は答える。


「こういう時は往生際悪く逃げるのが礼儀なのです!」

 本当かよ。

 しかし。


「逃すか、アイススクリューブリザード!」

「ファイアボール!」


 ごいごい魔法が飛んでくる。

 まさか相手は会長だけだと思っていないよな。

 僕はあんな魔法を避けられないぞ。

 というか当たったら死ぬだろあれ。


「降参!降参!」


「うーん、正樹は往生際が良すぎるのです。どうせならこんな感じに」

 会長はふっと気配をくらます。

 そして屋上の反対側に現れた模様。


「鬼さんこちら、ここまでおいで、甘酒進上なのですよ!」


 ぶっ!

 歩美さん、笑いを堪えきれなかった様子だ。


「全くあの人のサービス精神旺盛さ、困ったものです」


 確かにあれはサービス精神なのだろう。

 そうして最後にはきっとわざとらしく捕まるのだ。

「うむ、無念……」とか言って。


「さあ、行きましょうか。荷物の整理もあるでしょうし」

「そうですね」


 僕は歩美さんに連れられて非常階段の方へ歩き出した。

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