第140話 あとは2人で

「俺もきっと半年以内に春日野と同じ症状を迎えると思う。何せ思考共有だのしょっちゅうやっているからな。そういう意味で俺は春日野に感謝しているよ。考える時間を与えてくれたという事で。


 だからその礼に俺なりの考え方で後押ししてやる。俺なら迷わないぞと。迷いを見せないくらいの態度で楓に文句言わせない位の様子で答を出すぞと。楓が迷って苦しまないように俺は逆に迷わないし、楓に迷うという選択すらさせないぞと。

 以上、俺の場合の俺の意見」


 凄いな、と僕は思う。

 でもこの場の雰囲気がこれ以上重くならないよう、ちょっと茶化しておこう。


「凄いな、栗平。何より凄いと思うのは、今の意見を楓さんの前で堂々と言えることだけどさ」


「始終心の中まで見せ合っていたらこれくらいは出来るさ。ただ流石に口に出すと少々、まあ、色々なあ……」


 あ、自分でも恥ずかしいと思ったらしい。


「でも今の台詞、声で聞くとなかなかに感慨深いな。そう思っているとわかっていてもさ。そんな訳で僕はいちゃいちゃしたくなったから颯人とちょっと失敬する。僕の代わりは呼んでおくから心配するな。なおその代わりの人間にも、この場状況については逐一魔法で中継している。それでは失礼」


 楓さんと栗平の姿が消えて、その代わりに出現したのは。

 杏さんだった。

 固まった春日野を横目で見て僕は気づく。

 楓さん、あらかじめ仕掛けていたな。


「悪かった、楓さん」

 そんな声が聞こえた後、ふっと景色が変わる。


 ここは何処だろう。

 外だ。

 コンクリの下に手すりがある他はよく見えない。

 見えるのは空に広がる星空くらいだ。。


「保養所の屋上なのですよ。あとは当事者に任せておくのです」

 会長の台詞。

 僕と一緒にここまで移動したのだろう。


「そうですね」

 僕も同意見だ。

 あとは2人に任せておけばいい。

 どんな結論を出すかはもうわかっているけれど。


「正樹はこれからどうするのですか。2人のうちどちらを選ぶとか、どちらも選ばないとか」

「まだそこまでの話じゃないですね。一緒にいるのが楽しいという段階で」


 実際そうだと思うのだ。

 最初の合宿以来成り行きでずっと一緒。

 でもそれが何となく安心出来る関係。

 一緒にいて何か楽しいなとか嬉しいなと思える関係。

 今はまだ、そんなところ。


「未来も理彩もここへ来るまで、僕なんかよりずっと苦労をしていたみたいですし。それでやっと落ち着いた居場所を掴んだ。そんな感じだと思うんです。だからもう少しこの関係を大事にしていたいかな、というところですね」


「肉体的にイチャイチャしたくなった場合は」

「取り敢えず頑張って我慢しますよ。しばらくの間は」


 会長は頷く。


「つまらないかもしれないけれど、間違いなくて正しい答なのです。正樹らしいと思うし、もっともだと思うのです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る