第139話 栗平と楓さんの場合

 そして。

 その後春日野は色々、何かを考えている様だった。

 俺と栗平はやることがないので、本を読んだりネットサーフィンをしたり。

 まあ春日野もパソコンを持ってきていたので使ってはいたのだが、どこか心ここにあらずという感じだった。


 そして微妙に重い雰囲気のまま。

「夕食なのですよ」

という時間を迎える。


 とんかつにコロッケ2枚、サラダというなかなかボリュームあるメニューだ。


「そう言えばこの合宿ってどんな事をやっているんだ」


「基本は模擬戦なのです。最初に学年内の総当たり戦をやって、上位と下位を入れ替えてまた総当たり戦をやる、そんな感じなのです。あとは秋良達が作った機械類の最新型も展示して試せるようになっているのです」


「あの杖は評判良かったけれど、今の状態で最終型かい」

 楓さんが現れた。


「まだ改良は続けるつもりでしたけれど、今の状態でもほぼ理論的には完成品です。重量バランスとかも最適化はしましたし。今後は改良するとしても少しずつになると思います」


「副学園長や判定員で来た先生方にえらく好評でさ。学生には5千円、それ以外には5万円で市販して欲しいという話がある。杏さんは自分一人では決められないと言っていたけどさ」


「そうですか」

 春日野はそれだけ言って。

 そしてため息をつく。


「どうした。元気がないじゃないか」

「理由はわかっているでしょう」


「まあな」

 楓さんは頷く。


「そろそろ杏さんのデータ受けっぱなし魔法も切れただろう。それでどう思った。結論は?」


「僕としての結論は最初から出ていますよ。ただ……」


「杏さんの事を考えると、か。でもそういう場合は自分の意志を押し通した方が相手も気が楽ってのはあるぞ、実際。

 例えば颯人、颯人もあと数ヶ月のうちに同じ症状が出て、同じ決断を迫られることになると思うけれど、どう決断するつもりだい」


 栗平はふっと笑みを浮かべて言う。


「何度も言っているでしょ。楓を手放すつもりはないってさ」


 栗平は更に続ける。


「① 一生楓の魔力無しには生きられない体になる。

 ② 運が悪ければ魔力に体が負けて死ぬか再起不能か化け物化する。

 ③ 楓が万が一俺より先に死ぬとそれ以上生きられなくなる。

 ④ だから楓も俺と別れて別の人、が人情的に出来なくなる。

 ⑤ 万が一楓が俺関係で魔法を恒常的に使い過ぎた場合、楓の身体に影響が出る可能性がある

 考えられるリスクはこんなものだろ」


 さらっと栗平はまとめる。


「そして春日野が恐れているのは自分がどうなるかという事じゃない。何かおこった時に杏さんがどう感じるか、どう傷つくかだろう。悪いがそれくらい想像つくんだ。俺もそこをどう考えるか悩んだからさ。

 実際、春日野が倒れて原因が何となくわかって俺が真っ先に考えたのは楓の事だったんだ。春日野には悪いけれどさ。


 ただ俺は春日野と違って、楓さんと記憶も知識も考え方も共有した事がある。だから俺はある程度楓の考え方も感じ方もトレース出来る。だからその部分を動員して考えた。楓にとってどんな選択肢が最高なのかをさ。


 答はあっけなかった。心の中の楓に『バーカ』って言われたよ。俺が俺の心配をして楓と別れる決断をしたならともかくだ。俺が楓の心配をした結果別れる決断なんてしたらだ。それでも一緒にいたいと思う私の立場はどうなるんだ!そう怒られたよ」

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