第138話 込められた想い
そして楓さんは表情を引き締めて続ける。
「察しの通り、あの野菜ジュースには僕を含め何人もの魔法使いの魔法がかかっている。誰とは言わないけれどさ。皆快く協力してくれたよ。
そのうちの1人の言葉を紹介しよう。
『これは魔法使いと普通の人間が真に共存できるかの大事な試みです。甘いだけの結論は必要ありません。それだけの未来を背負っている。その自覚を持って答を出して下さい』。
私も全く同意見だ。そんな訳で杏さんの全てを知って、更に今までの失敗例も知って、そして結論を出してくれ」
失敗例?
「ああ。今回のケースと状況は違うけれどさ、自分の限界を超えた魔力を使った場合どうなるか、そういう実例もある訳だ。それはそのうち、って処だな」
相変わらず表層思考と会話がごっちゃになっている様子だ。
でもそれも便利だという位には僕も彼女達に慣れている。
さて、あと気になるのはもう一つ。
「学校側、副学園長の出方は今のところ不明だ。気がついていないとは思えない。だから多分、様子見というところだろう。
ただ会長は一応、罪状未公開のまま反省室入りになっている。反省室ってのは此処の場合、1階にある従業員専用の和室だな。携帯持込可、トイレと風呂以外は部屋の外へ出るの不可。ただ会長に対して意味があるかどうかは不明だけどな。むしろ颯人達を連れてきた時のような無茶をするなと、そういう意味だと私は想っているけれど。
まあそんな処だ」
当座の心配はいらないと。
「では、取り敢えず私は失礼する。長居すると問題がありそうでさ。悪いな颯人」
「ああ、布団の横に場所空けて待っている」
「監視がいなくなったらな」
何か酷い会話を残して楓さんは姿を消した。
「つまり2泊3日、色々考えて結論を出せという事か」
春日野がそう呟くような感じで言う。
「ところでその杏さんの情報が色々わかる魔法、杏さん自身は見られている事に気づいているのか?」
ちょっと気になったから聞いてみた。
「いや、本人は全く気づいていない。だから申し訳無いと思って見ないようにしても、勝手に状況が色々送られてくるんだ。何を考えているとか何をしているとか何を見ているとか」
「目を塞ぐことを許さない、という訳か。杏にやられたな、思考と記憶だけだけど」
なるほど。
「結構ハードな事やっているんだな」
「『見える』、『わかる』、『感じる』。その辺の違いってのは結構大きい訳でさ。何でも見えるからこそ感じる孤独とか疑惑とかもある訳だ。今はこういう感じだけれど、このことを知ったら変わってしまうだろうかとか。楓がそうだった訳だ。だから大丈夫と安心して貰うにはそれが一番早かった。全部共有して、その上で結論を出すってのがさ」
何気に栗平、軽そうに見えてハードなんだよな。
その辺は素直に感心する。
「だから楓や会長がやろうとしている事はわかる。だが俺は訴える。個人的かつ心の底から文句が言いたい!」
栗平がそう言ってわざとらしく立ち上がる。
「ちょっと外に出れば女子高生がうじゃうじゃ、きゃっきゃうふふとやっているのに何故に俺はここでむさい男3人で同じ部屋にいなきゃならないんだ。すぐ外には楽園があるのに!我は訴える!この悲しき世界を何とかして打破し……」
バン!カコーン。
上から金だらいが降ってきて栗平に命中した。
「いてっ、楓に聞かれたな、今のは」
「いや、違う」
金だらいがふわっと消失する。
この消え方には見覚えがあった。
「この魔法は歩美さんだ。歩美さんの具現化魔法」
「歩美さんまで一枚かんでいるって事か」
春日野はそう言ってため息をついた。
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