第131話 課題
「さて、ここからが話のメインよ。
普通はこの魔力依存症は老人の病気。それも長年連れ添った魔法使いの配偶者を失った老人の病気よ。
だから通常の治療方針は簡単。少しずつ身体から魔法を抜いていく事。少しずつ期間をあけながら、徐々に魔法との接触を断っていく。魔法使いである配偶者がいなくなっているからある意味それは簡単ね。治療能力がある魔法使いが半年くらいの間に10回程度治療すれば大体は何とかなるわ。
でも今回の場合は違うわね。だから選ぶべき選択肢も変わるわ。
率直に言うと選択肢は2つ。逃げるか耐えるか。
前者の場合はこの学校以外の学校へ転校して、今後魔法と一切関わらない。学校はうちと同等以上の高校を責任を持って紹介するわ。寮は多分無いからアパートか何か借りることになると思うけれど。それは返還の必要が無い奨学金を手当てする。
おそらくこれが一番正しい方法よ」
春日野は頷いて、そして尋ねる。
「それでもその方法を選びたくないとすれば、どうなるんですか」
「一生魔法使いと一緒にいる必要があるわ。離れたらそれで人生終わり。
ただ、他にも色々可能性があるわ。何せここまで普通人が魔力を浴びる事態は今までになかったから。
ひょっとしたら魔法使いと同じような身体に最適化するかもしれない。運が悪ければ人としての形を保てなくなり怪物化、あるいは生命すら保てない状態になるかもしれない。
私の未来視でも、どの可能性も同じくらいありうるとしか視えない。
そして更に石田さん。経験から春日野君に言いたいことがあるわよね」
杏さんは頷いた。
「1年程前の話だ。私と遊里さんとで買い物に行った時、たまたま交通事故を目撃したんだ。細い道でスピード出しすぎたバイクが電柱に衝突した。前カゴに重い荷物を積んでいたから操縦性も悪かったんだろう。それだけの事故だ。
ただ運転していたおばさんは打ち所が悪く、そのままでは1分以内に出血多量で死亡するのは明らかだった。だからつい反射的に魔法を使って治療をかけてしまった。
魔法を使って気づいたけれど、彼女の怪我は出血だけではなかった。ヘルメットをしていた頭部以外は酷い状態だった。だから何とか生命維持に必要なところから順に魔法をかけて治療をした。他に目撃者もいなかったし、そして救急車もなかなか来なかったから。
魔法は成功した筈だった。ほぼ全身治療した筈だった。でも、それなのに。
彼女は助からなかった。後で加奈さん、私が1年の時の3年の先輩に知識魔法で調べてもらった。結果はショック死。そのショックは事故の際のショックだけでない、治療に使った魔法へのショックもあると。
治療をしてもしなくても助かる可能性は無かった。そう加奈さんに聞いた。
でも私は想うんだ。ひょっとしたら、私が魔法を使わなければ助かったのでは無いか。魔法を使うにしても最小限だけの行使なら助かったのじゃ無いか。
今でも私は疑っているんだ。私の魔力が彼女を殺したのでは無いかと。
それ以来、私は治療を含む医療系の魔法一切が使えなくなった。それまでやっていた魔法研究会の執行部も辞めてしばらく閉じこもっていた。千歳さんに開発部に誘われて、そして機械専門なら何とかやれるかなと思うまで部屋の外に出られなかった。
だから秋良、私のお願いだ。私を忘れてくれ。魔法から離れてくれ。私の魔力でもう誰も害したくないんだ。頼む」
「ちょっと待って欲しいので……」
誰かの声が小さく聞こえた気がした。
でもすぐに声は途切れる。
「まだあなたの出番は早いですから」
小さく副学園長がそんなことを言った。
今のは?
そして杏さんも春日野も今の声に反応していない。
今のを聞いたのは僕と、副学園長だけなのだろうか。
「今すぐに決めるのは無理でしょう。だから考える時間を与えます。
このゴールデンウィーク中、ゆっくり考えて下さい。魔力切れの発作は1日2回、その野菜ジュースを飲めば起こらないでしょう。
ゴールデンウィークの最終日の18時、答を聞きに来ます。
それでは失礼しますね」
ふっと座っていた足に違和感。
気づくと僕と春日野は寮の部屋に戻っていた。
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