第130話 悪い予感
キンコーン。
部屋のインターホンが鳴る。
「はい春日野です」
「足柄です」
寮内なのに若い女性の声。
何だと思って、そして気づく。
なお春日野は僕より早く気づいたらしい。
慌てて玄関ドアを開ける。
「失礼しますよ」
入ってきたのは足柄副学園長。
そして。
「もういいでしょう。石田さん」
誰もいなかった筈の場所から杏さんも現れた。
「秋良、大丈夫か!」
「えっ、杏さん、何故ここに」
副学園長は微笑む。
「石田さんがいたく心配していましたので、一緒に連れてきたのですわ。さて、状態を見させて貰いますね」
そう言った瞬間。
ひくっ、と春日野が一瞬震えたような気がした。
「身体探査魔法をかけています。ちょっと待って下さいね」
副学園長はそう言って目を閉じる。
そして3秒後、また目を開いて頷いた。
「ちょっと色々お話をする必要があります。場所を変えましょう」
ふっと浮遊感。
見覚えの無い8畳程の和室だ。
真ん中に座卓が有り、4人分の座布団が置いてある。
「私の客間のひとつですわ。取り敢えず座って。足はくずしていいですよ。長くなるかもしれませんから」
言われるままに腰を下ろす。
座卓の上にガラスタンブラーに入った麦茶らしきものが出現した。
「それでも飲みながらどうぞ」
副学園長はそう言って。
皆が一息ついてから話し始める。
「まず春日野君の症状。本人が自覚しているように魔法切れで間違いないわ。とりあえずはあの魔力を封入した野菜ジュースで元に戻る。今やっているようにね」
そこまでは僕も予想がついた事だった。
でもきっとその先の話がある。
皆それに気づいているのだろう。
だから何も言わず話を聞いている。
「さて、問題はこの後。春日野君は既に普通人ではあり得ない程の魔力を受けて、そして使っている。あの魔力薬製造装置を使って、魔力を分け与えたのでしょうね。それもほぼ毎日。そして春日野君も魔法適性があったようで、分け与えられた魔力を使って魔法を使い続けた。魔力はともかく技術的には物質加工・組成は専門レベルに近い魔法操作ができるようになっているみたいね。
その結果、春日野君の身体は魔法依存症になっている。薬の依存症と同じね。魔力を一定の間供給されないと魔力切れの酷い症状が襲うようになってしまった。それが今の状態よ。
前例がない症状では無いわ。でも私の知っている限り、こんなに若い年齢で発症したのは始めてね。普通は魔法使いに長年連れ添った配偶者が起こす症状よ。つまりそれだけの魔力が身体を通り過ぎたという事よ」
思い当たる節は有り余る。
春日野はまさにその通り、毎日杏さんに魔力をもらって加工に工作に魔法を使っていたようだし。
そして話はここから後が本番なのだろう。
中毒者に対する対処は2つしか無い。
与え続けるか、やめさせるか。
不吉な予感がする。
でも聞かない訳にはいかないだろう。
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