第129話 気持ちはわかる、しかし待て
「さて、落ち着いたら腹が減った。ちょっと買い出しに行ってくるか」
おいおい。
早速これかよ。
「部屋から動かすなと杏さんに言われたからさ。ちょっと待ってろ」
「大丈夫だろ。あのジュース持って歩けば大丈夫」
「いやさ、せめてもう少し待ってくれ。どうせ杏さんに言われただろう。部屋で待っていろと」
「杏さんは心配しすぎなだけだ。離れているからだろう」
何か杏さん、この行動を読んでいたような。
だからあれだけ見張っていろと言ったのだろうか。
「なら冷蔵庫の中に何かあるだろう。それで我慢しろ」
僕は冷蔵庫を開ける。
レトルトだの何だのしっかり入っていた。
「何だよ。これなら飯炊けばすぐ食べられるじゃないかよ」
「いや、ちょっと外のコンビニの弁当が猛烈に食べたくてさ……」
怪しい。
これはひょっとして。
「まさかと思うけれど春日野、お前医者が苦手とか」
びくっ。
奴が一瞬震えたのを僕は見逃さなかった。
図星か。
「いや、医者が嫌いという訳じゃ無いんだ。ただ、得意としていないだけだ。別に服を脱ぐからとかでは無く……」
「苦手なんだな」
「いや、大したことはないから……」
「苦手なんだな!」
春日野、折れた。
「ああ、悪いか。苦手だよ。あの人の身体を探る感じとかそのくせ勘で色々判断するところとか。何せ親父が風邪と診断されて薬飲んでも全然調子よくならなくて、念の為別の病院に行ったら心不全と言われていきなり入院して。幸い助かったけれどさ」
「それだけでは無いだろう」
もっと個人的な何かがある筈だ。
この反応は。
「さあ、吐け!吐くんだ」
「いや、何でも無い」
「吐くんだ!」
春日野、がっくりとうなだれる。
「実は小学校3年の時な、ヘルニアで入院して手術という時に。普通に麻酔してさあ手術という時に発覚したんだ、僕の特異体質だ」
「何だ、それは」
「麻酔が効きにくい」
えっ。
それって。
つまり……
「どうなったんだ」
「のたうち回りそうになるのを強引に押しつけられて、無理矢理手術を敢行された」
それは……厳しい。
創造するだけでも痛そうだ。
理解した。
それなら一生医者嫌いになってもしょうが無い。
「わかった。確かにそれなら医者嫌いになるのもやむを得ないな」
「理解してくれたか、友よ」
そう言って春日野は立ち上がり、外へ出ようと歩き出すので。
「だがそれとこれとは話が別だ」
そう引き留める。
その時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます