第115話 絶対使ってはいけない控え

「参考までに、どういう試合だったんだ?」

 聞いてみた。


「サーブしかない試合だ。絶対返せないサーブが延々と続く。交代したら相手も絶対返せないサーブを放つ。そうやって互いに打ち返せないサーブを打ち合って、結局先攻を取った明里さんの勝利」


 春日野の返答。

 ちょっと想像してみる。


「……何か凄く虚しい試合ね」

 未来さんの感想のとおりだ。

 でもちょっと疑問。

「でもそんな、絶対打ち返せないサーブって存在するのか?」


 明里さんは頷いた。

「弾の回転数と角度、そしてコースが鍵だ。最小限の高さでネットを超えて、弾の高速回転故に次に盤に当たった時に跳ね返りが無いという。強いて言えばネットを越えた寸後に打ち返せる雰囲気があるけれど、その高さと場所で球の回転を打ち消せる打ち方はするのが不可能なんだ。

 でも楓の奴、自分がサーブの時に同じ事をやって見せたんだ。えげつなく行って正解だった」


 酷すぎる。


「次回から明里と楓は卓球禁止だな」

 杏さんがそう言ったところで。


「やっと飯なのですよ」

 防衛部隊が帰ってきた。


 取り敢えず僕は拍手をしかけたのだが。

 僕と春日野と栗平以外の視線が微妙に冷たかったのですぐ止めた。

 どういう事かと言うと……


「会長、酷すぎます。もう少し相手を立ててやって下さい」

「せめて1厘でいいからダメージを受けてやって下さいよ。相手が可哀想です」

 まず会長がそんな感じで攻められまくっている。


「歩美さんもです。酷いですよ。せめて相手を攻撃位してやらないと」

「これじゃ駄目?」

 歩美さん、具現化魔法で右手にピコピコハンマー、左手にハリセンを装備する。

「最悪です。考え方を直して下さい」


 皆さん完全に敵に同情している模様だ。

 味方に対する態度とも思えない。


「やっぱり今回の防衛、評判悪かった?」

 楓さんがこそこそ自席について尋ねる。


「入学前スカウトでアレやられて頭にきている奴が結構いる。会長抹殺を目標に入った2年生も多い」

 明里さんの解説。

 思わず納得出来てしまう。


「なるほど、僕と同じ目にあった生徒、割と多い訳なのか」


 もっともらしく言った楓さんを未来さんが睨んだ。

「楓の最後にかけた強制ゾンビダンス、同じくらい相手の尊厳を踏みにじっていると思うけれど」

「敵の目がまさに死んだ感じになるし、ゾンビ踊らせるには最高だろ」


 あ、楓さん。

 うちのテーブルと隣のテーブルの、明里さん以外の魔法使いから。

 冷たい冷たい視線で睨まれた。


 そしてテーブルの向こうでは。


「なら、この次に何かこういう事態があったら私が先頭に立って相手しますわ。今回は何も出来ないでちょっと貯まっていますから」


 遊里さんのそんな言葉で。

 周りの空気は一気に変わった。


「遊里、考え直して」

「遊里さんは控えでこそ輝きます」

「頼むから破壊活動はしないで下さい」

「気持ちだけで充分ですから」


 こそこそと明里さんが解説してくれる。

「遊里さんの魔法は高熱のみ。ただレベルが異常。地面を溶かして液化するのも簡単。一度学校裏の演習場最奥地で最高何度出せるかやってみて、途中で副学園長ストップが入った。それでも本気レベルの半分程度だったらしい。今では溶岩洞穴みたいになっている。後で見てみるといい」


「なら何で遊里さんを部隊に入れているんだ」

 春日野のもっともな質問。


「最強だから。相手がどんな魔法を使っても、それこそ異空間だろうと絶対零度だろうと心理魔法だろうとも。単一の熱魔法ながら圧倒的なパワーで全てを排除出来る。ただそれをやったら相手、骨も残らないけれど」


「味方も骨が残るか怪しい。なお本人は熱耐性がある」

 杏さんがそう補足。


 理解した。

 最強の控えにして、絶対使ってはいけない駒という訳か。

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