第114話 敵が可哀想

「僕は会長程タフでも歩美さん程異常魔法の持ち主でもないからさ。しっかり防御させて貰うよ」


 楓さんはそう宣言。

 言葉通り炎は自分の前に氷の壁を作って防ぎ。

 岩は出現と同時に粉々にして何処へとも無く消し去って。

 雷はいつの間にか避雷針を作って避けて。

 複合攻撃は間にでっかい氷山を作って。


「僕は心理以外は魔法、BかC程度だからね。戦っていたらそのうちボロが出るかもしれないよ」


 画面がもう冗談かと思う位に攻撃の色々が映し出される。

 具現化した槍の一斉降下なんてのもあった。

 その槍の雨は鉄の傘をさして防いで。


 瞬間移動を絡めた近接攻撃はムーンウォークで下がりながら器用に両手でナイフで捌いて躱し。

 氷弾の連続放射には赤い唐傘を回しながら弾を弾き返しと。

 だんだん防御に遊びの要素が加わっていって。

 何か相手が可哀想になって来た頃、やっと攻撃が止まった。


「いや、流石に君達も疲れたかな」


 そう言う楓さんの後では歩美さんがビーチベッド出して寛いでいる。

 緊張感のかけらもない。


「それにしてもなかなか出てこないね。君達の指揮官というか上司というか。そろそろこの遊びにも飽きてきたから歩美さん、終わらせてしまっていいですか」


「どうぞ。私もそろそろ夕食を食べたいですから」


「それじゃ了解っと。僕のスペシャル魔法、『スリラー!』」


 デンデンデンデンデン、デンデンデンデンデン……

 どこぞで聞き覚えのあるBGMがかかる。

 敵が何か嫌々ながらという感じで両手を前に出した。

 そのままBGMにあわせ、左へ、右へという感じでダンスを踊るように動く。

 その中心にさっと楓さんが入って、一人だけちょっと違う踊りをした後に。


「ポゥ!」

 片手を大きく上に上げて静止する。

 同時に全員がばたっと倒れた。


「スリラー、ばい、マイケルジャクソンなんてね」


 歩美さんが苦笑いをしている。


「敵の尊厳を無視するような魔法ですわ。しかもネタが古いし」


「でもJ-POPよりこの方が世界的にメジャーでしょう。それに歩美さんの魔法こそ敵の尊厳ぶち壊じゃないですか」


 そんな会話の後に。


「えー、こちらは会長です。皆さん聞こえますかどうぞ」


 声だけのメッセージが入ってきた。


「残念ながら敵の首謀者と直下の指導者、既に藤沢先生にいたぶられておりました。魔法を無効化されて封印空間に吊られ、生かさず殺さずの状態でいる模様です。

 なので楽しい実戦もここで終了なのです。副学園長からもOK出ました」


「それではニュース放送を中止します。本日予定のゲーム大会は予定を1時間遅らせて、午後9時から実施予定です。宜しくお願いします」


 放送が終わる。

 そして……


「敵に同情する」

 理彩さんの言葉に理彩さんも頷く。


「わかる。確かにこっちに攻めてきた敵だけれど、あれはちょっと可哀想だわ」

 愛海さん、彩葉さんも頷いている。

 魔法使いにとっては色々尊厳を傷つけられるような戦いだったらしい。


「それにしてもうちの皆さん、あんなに馬鹿馬鹿しく強いんですか?2年生も」


 気になったから聞いてみる。

 明里さんが苦笑いしつつ頷いた。


「副学園長が有望なのを世界中からスカウトして集めているんだ。長老レベル以上に強いのも各学年何人か。その分色々我が強かったりするけれどさ」


「明里、人の事言えない」

 さらっと杏さんがそう指摘。


「昼の楓相手の卓球、最悪にえげつなかった」


「しょうがないだろう。まさかいきなり1年生に負ける訳にもいかないし」


 栗平や春日野が苦笑している。

 どうも見た目にもえげつなさがわかる試合だったらしい。

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