第110話 理彩さんの理由は

「ところで正樹、頼みがある」

 いきなり理彩さんがそんな事を言う。


「何だ、頼みって」


「ちょっとここでは言いにくい。こっちに来てくれ」

 テニスコートの先、何もない方向へと歩き出す。


 何だろう。

 一緒に歩いて行く。

 大体テニスコートから50メートル位離れて。

 道が軽くカーブして保養所が見えなくなった場所でだった。


「ごめん、正樹」


 そんな言葉が聞こえたと同時に。

 ふっと辺りの視界が歪んだ。


 立っていられない。

 ふらついた処を理彩さんに支えられて。

 何とかしゃがみ込む。


「正樹すまない」

 何か、思考が、全く、まあ……


 ◇◇◇


 布の感触。

 目を開ける。

 木の天井。


 ちょっとして気づく。

 ここは保養所の中。

 周りを見回す。


 間違いない。

 荷物からして405号室だ。

 しかも僕と同じように横に誰か寝ている。

 飛び起きて確認。

 未来さんだ。


 他には誰もいない。

 外は暗くなりかけている。

 時計を見ると午後6時50分。

 もうすぐ食事の時間だ。


 何故こんな事になったのだろう。

 そう思いつつ、取り敢えず未来さんを起こす事にする。

 でも身体を揺すってというのもちょっと。

 揺する程身体に触れるのも何だしな。


 そういう事で、耳元に口を近づけて。

「未来さん、ごはん」


 起きない。


「未来さん、御飯の時間ですよ」

 ボリューム1.5倍でも起きない。


「未来さん、午後7時です。食事の時間ですよ」

 ボリューム2,25倍(当社比)でも起きない。


 ん?

 何かちょっとおかしい気がする。

 理彩さんもいないし。


 そう思って気づく。

 理彩さんだ。

 僕が意識を失ったのは多分理彩さんの仕業だ。

 ならこの起きないのは魔法の可能性がある。

 僕では起こす事が出来ない。


 ならば。

 だっと隣の部屋へ。

 運良く皆さんそろって出るところだった。


「明里さんお願いします。ちょっと僕ではどうにもならなくて」


「どうした?」

 その表情が疑問形からすぐに変わる。


「わかった!」

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