第109話 取り敢えず日常へ
「なるほど、それで楓はこの学校に入学した訳か」
「というか颯人にはこの話しただろう」
栗平はにやりと笑う。
「まあそれは合いの手という奴だ。それに話じゃないぞ。記憶をべたっと共有しただけだろ」
「だからその分話していないことまで知っているじゃないか」
「話として聞くとまた別な感慨がある訳でね」
理彩さんが驚いた顔をしている。
「記憶の共有って、全部をか」
「部分的にという手段は見つけてなくてね」
楓さんはそう、あっさり言う。
「それって大丈夫なものなのか。楓は平気なのか」
「私が平気かというより、褒めるべきは颯人のタフさだな。他の魔女以上に耳年増な心理系魔女の記憶を見ておいて、平然と付き合い続けられる神経の方がきっとタフだと思うぞ」
「共有だけに俺の華麗な女性遍歴まで明らかになってしまった訳だ。それが悲しい」
さらっと冗談めかして栗平は言うけれど。
おい、2人ともどういう状態なんだ。
いや状態は理解出来るし結果どうなっているかもわかる。
でも何故にそんな事をする必要があったのだろうか。
「いや、きっかけは大した事じゃない。お互いの売り言葉に買い言葉という奴でね。大人げない事をしたのは僕だ。そこから先は颯人の包容力というか鈍感力だな。
それより当座の問題は夜に何が起こるか、だろ。違うか?」
そう言えばそうだった。
「でも、今の状況ではどうしようもないわ。わかっていることが少なすぎるし」
「まあそうだな。ただ襲ってくるとなると相手は限られる」
「どういう事だ?」
僕は聞いてみる。
「ここからは予知とか魔法ではなく推理だ。
まず単なる泥棒だのそういう連中は除く。
集団に対して集団で襲ってくるなんて、今の日本ではヤクザでもしない。
つまり相手はそういった普通の世界の住人じゃない連中だ」
それってどんな……
と僕は思うが心当たりは無い。
ただ、未来さんは明らかに嫌な顔をする。
「まさかあの魔女狩りの後組織?何とか騎士団とか言う奴」
「可能性の一つだな。ただ僕は今回はそっちではないと思う。今の教皇はどちらかというと融和寄りで東方寄り、異教徒寄りだ。新東方騎士団もその方向で動いていると聞く。今、事を起こす可能性は極めて低い。
というところで現在午後2時45分。そろそろ3時からの試合に備えた方がいいんじゃないか」
「あっ」
未来さんが慌てて腕時計を見る。
完全に忘れていたらしい。
「そうだった。テニス。でも……」
「まだ事態は動かない。だから安心して行ってこい。僕も卓球があるからさ」
「そうね。まずは目先から」
そんな訳で
僕ら3人はテニスコートへ。
やっぱりストレート勝ちだった楓さんの試合結果を確認して。
「じゃあ私は軽くアップしてくるから」
という未来さんを見送る。
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