第108話 闇の右手

「それでは、あと他の執行部とも話してきますわ」


 歩美さんはそう言って去って行った。

 山方面に向かっている。

 きっと次の相手は舞香さんや聡美さんだろう。


「ねえ、もう少しさっき言った事について聞いていい?」


 未来さんが楓さんに尋ねる。


「まだ不確定だから言うなよ。多分今夜、ここは何かに襲撃される。それ以上はまだわからない」


 襲われる。

 どういう事だ。


「前にここに魔女が貯まって百鬼夜行が出たけれど、そんな感じ?」

 そう言えばそんな事もあったな。


「いや違う。もっと人の意志が関わる人為的なものだ。規模とかはまだわからないがな。私も詳細はまだ見えない。だから取り敢えずこの中で一番怖い人に相談してみたんだけれどさ、今の通りだ」


「怖い人って歩美さんの事?」

 未来さんが尋ねる。


「ああ。これでも魔法と喧嘩には自信があるんだが、歩美さんと会長だけは勝てるビジョンが思い浮かばない。会長はああいう感じだし、歩美さんは自分の実力を見せないからわからないだろうけれどさ」


「何故それを知った」

 理彩さんの問い。


「対決したからさ、この学校に来る来ないの話で。

 ここに来る前年、冬の話だ。私は離れを与えられて勝手に引き籠もっていた。金には不自由していないし欲しいものは通販で手に入る。

 だからそのままでよかったんだけどさ。君のような才能が必要だから入学しろって案内が来てさ。親も厄介払いついでに是非行けと。


『ならそこの高校生で最強を連れてこい。私が負けを認めざるを得なくなったら入校してやる』


 そういう条件をつけて、来たのが歩美さんさ。正直しめたと思った。魔力は低いし攻撃魔法もろくなの無さそうだし表層思考もガード無しだし。『闇の右手』の噂は聞いていたけれどこれなら勝てると思っていた」


 知らない単語が出てきた。


「闇の右手って?」


「歩美さんの二つ名さ。私と同じく小学生のうちについた二つ名だそうだ。だからライバル意識もあったし戦えてラッキーというのもあったな。だからうちの家の庭で2人でバトルという訳だ」


「それで楓が負けた訳か」

 これは栗平だ。


「ああ、散々にな。そして理解した。歩美さんはあの右手の魔法だけで他は何も必要ない。魔力すら最小限で充分。それでも誰も勝てない。精神攻撃も物理的魔法もナイフ投げもきっと核爆弾でも歩美さんに勝てない。実際核爆弾以外はやってみたんだ。心理操作、思考阻害、炎、寒冷、岩、高温と」


 おいおいおい。

 理彩さんが顔をしかめる。


「楓はそんなに色々使える訳か」


「心理系以外は並程度の実力だけどさ。挙げ句の果てに予知魔法全力でかけてもだ。勝てるビジョンにたどり着けないんだ。1時間かけて何回ピコピコハンマーで頭を叩かれたんだろう。『納得するまでやっていいですよ』って。あれがピコピコハンマーじゃなきゃ即死だ」


 うわあ。

 心が折れそうだ。


「歩美さんの魔法って何なんだ?」


「脅威の絶対無効化と、ありとあらゆるものの具現化。どの系統とも言えない特殊魔法だ。どちらも意識出来る範囲どこまでも有効らしい。範囲とかを意識した事が無いと歩美さんは言っていたからさ」


「つまり火を放とうが寒冷に曝されようが一切無視して近づいてきて、ピコピコハンマーで頭を叩かれたという事か」


「岩を落とした時は歩美さんのいた場所と進路だけに穴が空いて、地面を抉った時は同じく居場所と進路だけが穴があかずにそのままだったな。ナイフを投げれば当たらないし」


 やれることはやったと。

 しかしそんなのありだろうか。

 限りなく反則技の魔法だな。

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