第98話 ロビーの展示も盛況です
「理彩はアレに勝つことが出来るの?」
試合は一方的になっている。
派手さは全く無いのだが、楓さんに隙が無い。
どんなにいい球を返しても、偶然のようにその進路上にいたりする。
「私の魔法と体力では無理だ。楓は思考を読むだけではない。球の速度、回転、相手が可能なラケットの進路と確度。その辺を全部計算して予測の上、動いている。限りなく予知に近い精度。私の腕では突破不能」
「そんなの攻略方法が無いじゃない」
「攻略方法そのものは簡単。ただ私の力量では出来ない」
理彩さんはあくまで淡々とという感じに言う。
「どういう事?」
「自分の最高のレベルで戦うまで。楓がわかっても反応出来ないレベルなら勝てる」
「うーん」
未来さんはうなって頭を傾げる。
「でも楓、普通にテニスをやってもかなり強いわよ。多分」
「それでも小手先の作戦は通用しない。正攻法で攻めるのみ」
「確かにそうなんだけれど」
試合は一方的な展開になっている。
2ゲーム目もサーブ→レシーブ→とどめ、という感じ。
悲しいくらいに圧倒的だ。
そして身体強化等はやはり使っていない。
「今回のルールって4ゲーム先取だっけ」
「人数が多いからね。変則ルールで4ゲーム先取よ」
「ただ魔法無し地力でも楓の方が強そうだ。先に魔法杖展示の方を見に行くか」
「そうね」
そんな訳で僕達3人はテニスコートを後にする。
まあ実況そのものは映像付き魔法で流れている。
だからその気になれば何処でも観戦出来るのだけれども。
2階ロビーはパネル数枚とお試し用の機械2台、あと貸し出し用魔法杖と貸出簿。
組み立て式の魔法効果測定機も準備されている。
そして新型魔法杖の効果を試す生徒で魔法効果測定機は渋滞中。
40人ちょっとしかいない筈なのに10人も列を作っていたりする。
「盛況ね、なかなか」
無人展示の筈だが杏さんも春日野も個別に解説だの説明だのしている。
それに魔法薬作成機も魔法杖も以前のものとは姿形を変えていた。
魔法杖は全長50センチくらいと小型コンパクトに。
魔法薬作成機はドリンクサーバ型になっている。
作成容量を指定して魔法をかければ容器やコップに魔法薬が出てくる仕組みだ。
杖の設計図を見てみる。
僕が試作した魔法杖と比べると遙かに複雑な機械になっていた。
どうやら色々な理論を発見したり転用したりした模様だ。
「これを使えば正樹でも魔法を使えるようになる訳ね」
パネルの説明を見ながら未来さんがそんな事を言う。
そう言えば春日野が杏さんの魔力を借りて使っていたと言っていたな。
それを思い出しつつ見てみれば、まさにその事例の説明だった。
魔力が全く無い者でも魔法薬を使えば数時間は魔法を使うことが出来るらしい。
無論個々の適性等もあるし、使える魔法の威力はそれほど高くは無い模様だが。
「いずれ一度、正樹に私の魔法を使ってもらってもいいかもしれない」
理彩さんがそんな事を言う。
「理彩さんの魔法って、心理系統の」
理彩さんは頷く。
「ここへ来るまでは自分でも嫌っていた魔法。でも最近少しはこの魔法もいいかなと思えてくるようになった。だから正樹にも使って貰って、感想を聞いてみたい」
「でもそれ、自分の心の中も見られるって事じゃ無い。いいの」
理彩さんは更に頷いた。
「正樹も未来も今はそれを許容してくれている。ただそれに対する感謝とか、そういう思いが伝わらないのがもどかしい。だからいずれそんな感謝やそれ以上の思いを直接見て貰いたいなと思っている。私も色々整理が出来ていないし、まだ先の話だろうけれど、でも何時か」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます