第87話 楓さんの実態
御殿場側からは峠をひとつ越えれば山中湖だ。
結構近い。
後発隊は午後6時に出たのだが1時間もかからないで到着した。
「食事は午後7時30分、1階の食堂です」
それでもあと30分ちょっとだ。
荷物を載せた台車を2階のラウンジ奥に押し込む。
それから4階へ階段を上がり、一番奥へ。
栗平はもう部屋に着いていた。
「初めまして。今日から明後日まで同じ部屋の柿生正樹です。宜しくお願いします」
取り敢えず挨拶をしておく。
「こちらこそ。伊勢原楓だ。以後宜しく」
楓さんからは普通に挨拶が返ってきた。
何となく安心。
2人が部屋の奥側にいたので手前側に陣取る。
「柿生、この合宿は初めてなんだがどんな感じなんだ」
栗平が聞いてきた。
「このあとは夕食兼宴会だな。先生は早々に消えるし宴会は出入り自由だし、気楽に構えていて大丈夫だ」
「宴会も出入り自由。苦手なら自分の部屋に戻っても大丈夫だから。全部の行事は自由参加だしね。気楽に構えていても大丈夫」
未来さんが補足してくれる。
「了解だ。説明ありがとう」
普通に返事が返ってくる。
人嫌いで授業すら出てこないという話だったけどな。
そんな印象は無い。
「君達は理彩のお墨付きだからね。警戒する必要は無いだろう」
なるほど、と思った後にちょっと違和感。
「楓、回答は質問の後」
理彩さんの注意で気づいた。
楓さんは頭を下げる。
「悪い。初っ端からやってしまった」
そういう事は、つまり。
「まあついでだから説明するけれど、僕は表層思考が通常の声と同じレベルで聞こえてしまう。一応声か思考か確認してから反応しようと思うのだけれど、何せ同じように聞こえてしまうものでね。
そんな訳で普段は人嫌いという理由で部屋に籠もっている訳だ。今までも色々やらかした憶えがあるのでね。念の為」
何というか、まあ、色々と理解した。
表象思考を読むなんてのも、まあここへ来てからは良くある話だ。
だから怖いとかいうよりは。
こっちが先に自主規制で注意しましょうという程度にしかならない。
どうせ理彩さんが一緒の時点で、最低1人にはだだ漏れなんだし。
「そう思ってくれるとこっちも楽でいいね。ちなみにもう1人の普通科生、秋良君もなかなか豪儀な考え方の持ち主だったよ。
彼の表象思考を読まれることについての感想はこうだ。『下手に想像して一喜一憂されるより、正確に読んでくれた方が間違いが少ないだろう』。まあこれは明里さんに聞いたんだけどさ。
最近の普通科生は心理的にタフなのかね。それとも類は友を呼ぶというやつかね」
色々意外だった。
普通の女子高生な見た目で、一人称は僕で、話し好きか。
「話し好きというか、要は表層思考に対して反応する癖がついてしまってね。そんな訳で通常に比べれば口数は多い方らしい。まあ普段は封印しているけれどね。何せすぐボロがでるもので」
「楓、だから」
「この場くらいはいいだろ、正樹君も気にしていないようだし。これは理彩が鍛えたのかな。いや明里さんが覚悟を迫った訳か。了解だ」
本当に表層思考筒抜けだな、これは。
ここまでくると怖いというのを通り越して苦笑するしか無い。
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