第85話 合宿前事前教養
いつもより少し早く理彩さんの部屋を出る。
予定通り特別科寮の階段部分で2人と出会った。
まあSNSで時間・場所を連絡しておいたのだけれども。
「ほい、今度の合宿のパンフレット」
これを渡すのが目的だ。
「おお、ありがたき幸せでござる」
「サンキュー」
それぞれパンフを受け取る。
「部屋はどうかな。どうせ男3人だろうけれどさ」
「まあな」
甘いな栗平。
そして春日野。
「そんな常識は魔女相手には通用しないぞ。最終ページだ」
「どういう意味だ」
2人とも関心があるらしい。
さっと最終ページを開く。
「おお、楓ちゃんと一緒、でも柿生一派も同室か」
「……とりあえず知らない面子で無かったのを喜ぶべきだろうな」
うん、春日野の反応は良くわかる。
「というか、何だ春日野完全なハーレムじゃん」
「いつも一緒に夕食を食べているメンバーだ」
大丈夫、魔女相手にハーレムなんて甘い事態は起こらない。
それは栗平もじきわかる……のだろうか?
「まあ歩きながら話そう」
そう言って黒い彫像が並ぶロビーへ。
「この彫像作るので、杏さん大丈夫だったか?魔力的に」
「本人はかなりノリノリで作っていたぞ。黒くしたのも本人の趣味だ。錆び止めというのは単なる口実」
栗平、彫像を改めて見る。
「この不気味な彫像、わざわざ作ったのか?」
まあそれが普通の感想だな。
「よく見ろ。美術の教科書でお馴染みの像だ。ラオコーンにダビデにサモトラケのニケだ。形だけはさ」
栗平はまじまじと像を眺める。
「確かに。でも黒くて影が濃いと随分印象が違うな」
何せここのロビー、微妙に薄暗い。
「魔女にはこの方が好評らしい。魔女の館にふさわしいってさ。この寮には魔女の住処らしい不気味さが足りないそうだ。だから魔女多数の希望により作った。廃材の鉄をかき集めて、魔法で形を作ってな」
「ちなみに作ったのは僕と一緒に魔法道具を開発している先輩だ」
「凄い趣味しているな」
「そんなものだ」
そして外へ。
「それはともかく、合宿で特に必要なものは何かあるか」
「着替えくらいだな。飯は出る。ただ食事当番が2日目の昼に回ってくる。詳細は杏さんに任せておけば問題無い」
「わかった」
「何か知らんがわかった」
他に注意はと。
そうだ、注意事項と言えば。
「あと現場にはセクハラ幼女が風呂に出没したりするけれど気にするな。仕様だと思ってくれ」
「何だそれは」
春日野の台詞に重なるように。
「呼んだですか?」
声が聞こえた。
「呼んでいない。まっすぐ帰るから消えてくれ」
「うーん、いけずなのですよ」
奴は消えた。
「何なんだ今のは」
栗平は瞬間移動の魔法には慣れていない。
辺りをまだ見回している。
「ただの魔女だ。気にしたら負けだ。正確には魔法研究会会長、百合丘静音。魔法で時を止めているから見かけは小学生だが中身はセクハラ大好き女子高校生3年生だ。何処でも出てくるけれど気にするな、そういう魔法属性だ」
「また呼ばれたようがしたのですが」
「呼んでいない」
もう確認しないで歩き出す。
「あとは合宿所に魔女が集まる関係で、負のエネルギーが貯まって妖怪が出たりする。基本的には無視して、やばそうなら『マユキラテイ・ソワカ』とでも唱えておけとのことだ。本当にやばい場合は本職が退治してくれる」
「何だそれ。冗談だろ」
「冗談で済めばいいな」
なお呪文については舞香さんに聞いた。
「おい待て。それじゃここや特別科の寮は」
「学校はある程度恒久的な対策をしてあるから大丈夫とのことだ。でも保養所はそうじゃない。まあ驚く程度で大した事は無い」
「本当かよ……」
「やめてくれ。こちとら妖怪系は苦手なんだ」
がたいに似合わず春日野がそんな事を言う。
「うちの田舎にくねくねという話があってな。夏の昼下がり、田んぼを見ると……」
なんて下らない話をしつつ、寮へ戻る。
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