第76話 今のはリハーサルでした

 さっきと同じようにバーベルに手をかける。

 あれ?

「軽いです」


 さっきと全然違う。

 腕の力だけでも動く。


 なのでよいしょっと肩の上まで持ってきて。

 そのまま腕力で上へ。


「何か冗談みたいです」


「よし、静かに下ろせ」

 という訳で下ろす。


「この魔法、どれ位効力あるんですか」

「1時間程度」


 そうか。

 このままずっとだと楽しいと思ったのだけれど。

 残念。


「さて。仲間内への披露と、発表のリハーサルは終わったのですよ」


 会長が妙な事を言う。

 リハーサル?


 遊里さんが口を開く

「それでは皆さん、姿勢を正してくださいな。副学園長がお見えです」


 副学園長!

 さっと緊張感が走る。


 そして。

 トントントン。

 ノックの音。


「どうぞ」

 いつの間にか入口付近にいた麻里さんがドアを開く。

 歩美さんに連れられて、この前の女性が現れた。


「ごめんなさいね。今の様子、実は別室で見ていたの。この前以上にとんでもない物を作ったわね。面白いというか末恐ろしいわ。

 まあそれはともかく、再実験させて下さいな。先程の動きで操作はわかったから、私に全部やらせて」


 彼女はどこからかイチゴのパックを取りだし、蓋を開けて機械にセットする。

 更にパックをさっと左右に切り裂いて平たくして。


「今回は調整は2箇所なのね」


「魔力の増幅部分と、どの魔力を浸透させるかの選択部分です」


「説明ありがとう。それでは」

 彼女は軽く両方のレバーに触れる。


「なかなか強烈な出力ね。この前の杖の数倍かな。位相を揃えた分、実際にはそれ以上ね。という訳で」


 一瞬でパックを元の形にもどして、手に取って歩美さんに渡した。


「1人1個食べてみて」

 という訳で、順繰りにイチゴを取って。

 僕も取って、そして口に入れる。


 一瞬、視界が変わる。

 様々な場所に、様々な時間に。

 瞬く風景をきっちり捕らえることは出来ない。

 それでもしっかり感じるものがある。

 僕の直ぐそばにいる温かい気配と、そして何か充足感を。


 気がつくと元の教室。

 何も変わっていない。


「今のは」

 誰かの呟き。


「何かが見えたのなら、この機械の魔法効果は本物という事ね。

 さて。評議会にここの理事会にと、色々また面白い事になりそうだわ。取り敢えずわかりやすい強化薬をいくつか作って、あちこちばらまきましょうか。野菜や果物だと傷みそうだから紙パック飲料が無難ね。

 それでは作業をしますから手伝って下さいな」

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