第75話 魔法筋肉増強剤?

 更に杏さんが付け加える。

「単なる水より色々成分が入った物の方が魔法付与効率が高い。水分の多い野菜や果物等でも大丈夫。試しにトマトを使用した結果、それまで使用していたオレンジジュースよりやや高い効率を確認」


 そして会長だ。

「それで、なのですよ。何か実験用として大変わかりやすい、パワフルになるトマトを作ったと私は聞いたのですよ。

 折角ですからこの場で皆様に威力を披露して欲しいのです。そんな訳で正樹、前に出てくるのですよ」


 いきなり名前を呼ばれた。

 仕方なく前に出る。


「何ですか」

「正樹は魔法を使えない。だから魔法効果を見るにはちょうどいいのです」

 言っている事は筋が通っている。


「そんな訳でまずはドーピング前の実力測定。正樹、そこのバーベルをちょっと持ち上げてみるのですよ。事故りそうな時は魔法サポートするので心配せず、思い切り実力を見せつけるのですよ」


 バーベルとは、あの120キロという奴だ。

 春日野は気分転換で持ち上げると言うけれど。


「もう少し軽くしていいですか」

「重い方が実験としてわかりやすいのですよ」


 わかった。

 仕方ない。

 僕はバーベルに手をかける。


 動かない。

 やっぱり重い。

 腕の力では無理。


 腰だの何だの全身の力を使って。

 何とか腿くらいまでは持ち上げたけれど。

 腕を曲げられない。

 そして既に強烈にきつい。

 なのでバーベルを何とか下ろす。


「手を抜いてはいないです。年齢相応の筋力ですね」

 舞香さんがそう解説。


「さて、私の手元に小ぶりなトマトが1個あるのです。これはついさっき、業務用スーパーの特売で買ってきた1個あたり20円しない安物なのです。安かったのでつい3箱購入してしまったのです。これに魔力を付与、正樹に食べさせてみせるのです」


 会長、あんたも買ったのか。

 というのは置いておいて。


「せめてデモならもう少し美味しそうなトマトにして貰えませんか」

「贅沢は素敵、いや、敵なのです」


 そんな訳で。

 紬さんがトマトを受け取って機械の中央付近に置く。

 杏さんが操作部の方について何やらつまみを調整して。

 そしてレバーを両手で握る。


「終了。標準的な筋力強化魔法1回分程度を注入」

 何も気配とかはしなかった。


 そして紬さんがトマトを僕の方へ持ってくる。

「汁まで魔力が入っているから、推奨は丸かじりです」


 うん、しょうがない。

 まだ完熟していないから甘みが少なく青臭いトマトを丸かじり。

 そのまま汁をこぼさないように一気に食べる。

 ちょっと酸っぱいだけであまり美味しくなかった。


 そして。

 あ、何か口や食道、胃袋から妙な感覚。

 強いて言えば辛い物を食べた時の感触に似ているかもしれない。

 何かが下へと移動していく感覚。


「魔力可視化が出来る人はもう見えていると思うけれどさ。一応確認して貰おう。正樹、さっきのバーベルに再チャレンジだ」


「はいはい」

 筋力が強化されたような気はしないんだけれどな。

 そう思いつつちょっと歩いて。

 何か微妙に身体が軽い気がするのに気づいた。

 まさか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る