第73話 呼ばれたような気がしたのです

 そんな感じであっさりいつもの日常に戻って。

 45円とか60円とか投げやりな値段がついた菓子パンを3人で食べて。


 さて。

「暇ね」


 ここは工業団地の中。

 近くにあるのは自衛隊と米軍の演習場くらい。

 新緑と富士山だけは綺麗だけれど。


 街まではバスで片道370円かかるので。

「お金が勿体ない」

 と2人が拒否。


「ゲームでもする?」


「どんなゲームなの?」

「野球拳」

 おい理彩さん、全然昨日の反省してない!


「野球拳?ベイスボール・フィスト?何かダンスか拳法みたいなもの?」


 未来さんの習った日本語の単語に野球拳は入っていなかった模様。


「野球拳とは一世紀前の明治時代、四国伊予は松山の地で生まれたと言われる郷土芸能。かつて正岡子規がこの地で広めたベイスボール訳して野球の名を冠し、その後数々の変遷を得て、芸能としての本家野球拳と勝負としての野球拳に……」


 理彩さんは滔々と説明を開始。

 普段の無口が嘘のようだ。

 ただここは教育的指導だな。

 内容的に。

 軽く理彩さんにチョップをして未来さんに説明。


「平たく言うと、ジャンケンで負けるたびに1枚ずつ服を脱ぐという脱衣ゲーム。勿論本家野球拳は違うけれど、理彩さんがやろうとしているのは脱衣の方」


「全く……」

 未来さん、呆れる。


「それにしてもこの3人だと理彩、人格が変わるよね。会長っぽくなるというか」


「名誉毀損、ヘイト発言。抗議を表明」

 なんて下らない話をしていると。


 ピンポーン。

 部屋のインタホンが押された。


「はい」

 未来さんが出る。


「呼ばれたような気がしたので出てきたですよ」

 おいおいおい。

 本家本元だ。

 理彩さんの口元が笑っている。

 気づいていたらしい。


「間に合っています」

 未来さん、会長とはいえ先輩に対してそれは失礼な気も。


「うーん、いけずなのですよ。そう言わずに付き合って欲しいのです」

 未来さんは理彩さんの方を見る。

 理彩さんは頷いた。


「わかりました。今開けます」

「許可だけくれればそれでいいのですよ」


 玄関ドアのこっち側に会長が現れた。

 そう言えばこの人は空間魔法使い。

 ドアに鍵がかかっていようと関係なかった。


「お暇な夜のお友達。会長さんなのですよ」

「今は昼です」


「うーん、ノリが悪いのです。それはともかく。

 開発部の新製品が先行試作品状態まで出来たそうなので、研究会常連メンバーへの御披露目なのですよ」


「それを先に言って下さい」

 なかなか面白そうだ。


「場所は特別科棟4階のいつもの開発部の部屋なのですよ。それでは他にも回りますので失礼をば」

 会長、消える。

 次の部屋に向かったらしい。

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