第72話 今が一番楽しい、だから問題無い

 翌日。

「昨日はごめんなさい」

 開口一番理彩さんに謝られた。

 察するに未来さんが大分絞った模様。


「大丈夫、もう気にしていないから。それよりお買い物」


「わかった」


「正樹は甘いと思うけれどね、まあいいか」

 という訳で。

 業務用スーパーに食料品をお買い物に出発だ。


 中へ入ると、いるいる。

 顔見知りの魔女がこぞって買い物に来ている。

 そして春日野も買い物用カートを押していた。

 既にカート内上下に置かれたかごは山盛り。

 特売のトマト箱入り12個180円が数箱積んであるのが見える。


「春日野、お前もか」

「柿生も同件のようだな」


 理彩さんが春日野と同じ特売品トマト箱入り2個を持ってきてカゴに入れた。

 更に未来さんがジャガイモ安売り100円を2袋カゴに入れる。


「あれ、知り合い」

「開発部に拉致された春日野秋良。あの杖の改良等とか怪しい新作を作っている」


 未来さんは頷いた。


「杏さんの被害者ね。初めまして、狛江未来こまえみくです。秋良君のことは愛海や彩葉から聞いています。宜しくお願いします」


 ふと左手をつつかれる。

 いつの間にか理彩さんも来ていた。


「喜多見理彩、同じく1年M組。どうぞよろしく」


 そして春日野も。

「春日野秋良です。こちらこそどうぞよろしく」


 なんてお互い挨拶をしていると。

「秋良、こっち」

 杏さんに向こうで呼ばれている。


「ではまた。失礼します」

 と春日野は山盛りカートを押して去って行った。


「何か凄い量ね」

「あそこは5人分だからさ。杏さん色々凝りそうだし」


 そう言いながら僕は400グラム120円ちょっとの安いキムチを2個カゴへ。

 更に12個入り78円の餃子とか。

 500グラム78円のスパゲティ500グラムを5袋とか。


「そう言えば米もそろそろ買った方がいいかな」

 という事で10キロで一番安いのをドンと入れて。


「もう今日はこの辺りにしよう。持ち帰るのが大変だ」

「同意」

「そうね」

 と言うことで。


 今日の朝昼用に賞味期限が近くなって安売りしている菓子パン類を買って会計。

 米を買ったので7千円近くになった。

 1人2千円超。


「ちょい痛い。でもしょうがない。主食は重要」


 そして荷物が重い。

 取り敢えず一番重い米10キロは僕のディパックに無理矢理詰める。

 更にトマト2箱とか、何気に重い乾燥スパゲティの束とかを分けて。

 よいしょよいしょと徒歩7分の道のりを特別科寮へ。


 2階の理彩さんの部屋に何とか到着。

 部屋に見合わない巨大冷蔵庫に入れる。

 流石に両開きの大型冷蔵庫の威力は凄い。

 米は別としても、あれだけあった色々があっさり入る。


「そう言えばこの巨大冷蔵庫はどうしたの。便利だけれど」

「元々自分で使っていた。引っ越しで持ってきた」


 どういう事だろう。


「うちは2人家族。父は私が幼稚園年少の頃に事故で死んだらしい。母は私の魔法を気持ち悪がって、小学校3年頃から単身赴任を理由に滅多に家に帰らなくなった。お金だけは送ってきたので何とか自活していた。その頃から使っている、つまり元々家にあった冷蔵庫」


 おい。

 何気に重いことをさらっと言われてしまった。

 でも理彩さんは笑顔で続ける。


「心配ない。今が一番楽しい。だから問題無い」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る