第71話 理彩さんの微笑

 今が一番楽しいかな。

 なんて考えているとだ。


「何なら今日は風呂入って帰る?大浴場」


 理彩さんがそんな事を尋ねる。

 おいおいちょっと待て。

 なんて事を言うのだ!


「何の話?」

 未来さんは話の流れを掴めていない。

 そうだよな。

 この風呂とは明里さんの言葉を受けてだろうから。


「本日の『会長による性器見せろ事件』で、明里さんが杏さんを諫めた台詞。

『異性の裸を見ていいのは、風呂に入っている等必然性がある場合か、いわゆる性的関係を確かめ合うような場合だけ』

 なのだそうだ。だからちょっと言ってみた」


 理彩さんによるわかりやすい解説。

 おいおいおいおい。

 表層思考を見えると公言した後にその台詞かよ!

 想像するなと言われても色々無理があるぞ。

 理彩さん1年にしては胸あるし。

 あ、余計な想像をばらまいてしまった。


「何なら会長の乱入その他は私の魔法でガードする」


 そう言われても……

 というところで。


「教育的指導!」

 未来さんから理彩さんにチョップが入った。


「正樹君で遊びすぎ。それじゃ正樹君が来てくれなくなるよ」

「それは困る」


 おいおいおい、遊ばれていたんかい。

 確かにいつも無表情な理彩さんの口元が笑っているけれど。


「普段の理彩は言動に凄く注意しているんだけれどね。正樹相手だと何というかリミッター外すのよ。まあ理彩のやり過ぎは私が止めるから気にしないで」


 何か立場が色々変わったな。

 どちらかというと理彩さんが止め役のような気がしたけれど。

 それにしても未来さんが止めてくれるとは言うけれど。

 風呂の中まで付き合って制止してくれるのだろうか。


 あ、まずいまずいまずい。

 余計な思考回路が入っている。

 これはいけない。

 危険だ。


 幸い御飯がほぼ片付いた状況だったので。

「ごちそうさま。今日は洗い物は僕の番だよな」


 ささーっと皿を回収してちゃぶ台を離れる。

 思考が色々問題ある時に女の子とちゃぶ台を囲んではいけない。

 少しばかり強制冷却だ。


 ただ背後から声は色々聞こえてくる訳で。


「だから大浴場も取り敢えず禁じ手!」


「なら性的関係を結ぶしかない。何ならここで今」


「見つかったら退学ものよ。主に正樹が」


「現行犯、見つからなければ罪じゃない」


「何よその間違った交通標語みたいなのは」


 絶対これ、理彩さん遊んでいるだろう。

 そして未来さん、割と常識人の模様。

 そこを理彩さんに突かれて遊ばれている訳だ。

 ただ僕の理性に対しても結構厳しい攻撃になっている訳で……


 洗い物が全て終わった段階で。

 カバンの位置と玄関、最短行動ルートを確認。


「片付け終わり。ごちそうさま」

 もやもやした思考を振り切るような勢いでカバンを取って玄関へ。


「それじゃまた明日」

 三十六計逃げるにしかず、という訳だ。

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