第67話 芸術と私の興味の為に

「いくら何でも高校でそれはまずいでしょう」


「何事も芸術の為だ。芸術に良くあるヌードデッサンだと思ってくれればいい」


「会長、それは私情が入っていませんか」


「芸術の為なら問題無い。さあ2人とも覚悟を決めてくれ。特別科の福祉と芸術と私の興味の為に、脱げ!」


「やっぱり私情ありありじゃないですか」


 ちなみに杏さん。

 いつのまにかスケッチブックと4Bの鉛筆を持っている。

 本気らしい。

 いやおいおい待てって。


「さあ2人とも諦めろ。大丈夫、壁の染みを数えている間に全て終わる」


「もう少し時間を下さい」

 杏さんがマジだ。

 一体何を考えているんですか。

 正気を取り戻して下さい。


「諦めろ、杏さんは制作のためには妥協しない。だから正樹、諦めてくれ」


「杏さんは春日野の担当だろう」


「小生自分の何には自信が無い」


 とお互い譲り合っていると。


「さあ2人とも。私の取っておきの魔法で剥いてあげるのですよ。触ったものがほんの少しだけ移動する魔法。これを使えばあっという間に全裸万歳」


 何だそれはと思って気づく。

 要はさっき鋼材を移動させたのと同じ種類の魔法だ。

 つまり、


「はったりじゃないよな」


「会長は空間操作魔法が専門だ。さっきも重さ100キロ超の鋼材を瞬間移動させて運んだりしていた」


「つまり実際に出来ると」


「ああ」


 春日野の絶望的な表情。

 恐らく僕も同じような表情をしている事だろう。


 会長の魔の手が近づいてくる。

 後退する僕と春日野。


 そして遂に。

 左足のかかとが壁に当たった。

 もう後が無い。


「さあ、人生諦めが肝心なのですよ。杏、観察の準備は万全なのですね。あと後の皆さんシャッターチャンス!」 


 おい。

 というところで。

 不意に会長の動きが止まる。

 固まったまま動かない。

 表情すらも。


「杏。少しは常識、考えよう」


 この声は知っている。

 僕も、そして春日野も。


「明里さん」


「悪いな。これでも急いだんだが」

 確かにはあはあと息をしている。

 正に全速力で走ってきたという感じだ。


「明里、どうした?」

 杏さん、色々無自覚。


「紬にメッセージ貰った。それで全速力で走ってきた。

 少し時間をくれ」

 はあはあと息をついている。


「会長はあのままで大丈夫ですか」


「ああ。3時間くらいかけても手がしびれる程度。問題無い」


 理彩さんの魔法とは違う訳か。

 そんな訳で僕らは明里さんの息が整うのを待つ。

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