第55話 春日野君拉致実行中(2)
「それでは移動する。申し訳無いがちょっと目を瞑っていてくれ」
波都季さん、そう言うという事は瞬間移動する気なのだろう。
「どういう移動をする気なんだ」
それを説明出来ないのがもどかしい。
「後で説明する。だから春日野、頼む」
「わかった」
という訳で春日野が目を瞑る。
僕もそうした直後。
軽い浮遊感。
そして着地。
「よし、もう目を開けていい。色々済まなかったな。ちょっとこの場所は秘密にしたかったからさ」
春日野が目を開ける。
「今のは瞬間移動か。超能力という奴かな」
「思った程驚いていないな」
「最初の出現が瞬間移動にしか見えなかったからな」
なるほど。
思った以上に春日野、順応力があるようだ。
そして杏さんが前に出てくる。
まずは担当が直接という訳か。
「無茶な誘い方をして済まない。でも早速だがこれを見て欲しい。設計図は横に置いてある。これを見て、私に意見して欲しい」
会議用のテーブル上に置いた魔法杖と設計図を春日野に示す。
なお部屋には他に千歳さん、紬さん、そして舞香さん。
開発室の要員と波都季さん曰く処の誘拐要員だ
他の姿は見えない。
そして春日野は図面を見て。
杖の実物を見て。
杖を持ってみてとひととおりやった後。
小さく頷いて口を開いた。
「機構そのものは原始的なアンテナ。波長が20メートル級の。でも電磁波用かどうかはわからない。アンテナとして使うには発信器に接続する必要がある。でも発信器接続にあたるところは何故か手で持つところになっている。
機構的な部分から僕がわかるのはそこまで。
あとこの工作技術は僕にはわからない。外側のプラスチック製フェアリングが一体成形されているようにしか見えないが、そうだとすると中に入っているらしいアンテナ部分をどうやって入れたかが理解出来ない。そんな感じだ」
「見事」
杏さんはそう言って拍手した。
他の皆様は僕を含めて黙って見ている。
「なら、これは実は魔法の杖。先程の移動は超能力では無く魔法。そう言われたら信じられるか」
春日野は頷く。
「状況証拠は揃っている。信じるかどうかは別として、そういう物があるという前提でこの場はなりたっている。それは認める」
何か僕にはわかりにくい妙にもったいぶった感じの話し方だ。
でも杏さんと春日野は妙な感じだが意志が通じている様子。
一種の様式美というか儀式というかそんな感じ。
「その通りだ。試すような真似をして済まない」
杏さんはそう言って頭を下げて。
「それでは取り敢えず、続きはお茶を飲みながら話そうか」
と千歳さんが引き継いだ。
◇◇◇
「つまり
春日野は僕が前に聞いた一通りの事を聞いた後。
大きく頷いた。
「それなら急な躍進の理由も理解出来る。その割に論文数が少ないところも」
「そんな訳でな。ここでは昔ながらの魔法そのものの復活を研究している。大学部には魔法そのものを研究している場所は無い。だからここが唯一の魔法研究拠点だな。
ただ実態は高校生3人で細々やっているに過ぎない。実際今回の魔法杖開発でよく分かったよ。ここも外部の知識が必要だ。
そんな訳で大変申し訳ない形で恐縮だが、春日野君にご足労いただいた訳だ。頼む、力を貸してくれ」
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