第54話 春日野君拉致実行中

 そんな訳で昼休み。

「春日野、今日の放課後、ちょっと時間取れるか」


「何ぞや。電子工作部は仮入部中だし、正式入部後もどうせ自由活動が主だし時間はいくらでもあるが」


「実は電子工作に詳しい人に聞いて欲しい話があってさ」


「相手は女か」

 こら栗平。

 貴様は呼んでいない。

 まあ横にいるから聞こえるだろうけれどさ。


「この学校にそんなに女子がいると思うのか」


「そうだよな」

 栗平、あっさり諦める。

 ふふふ、僕は女じゃ無いとは言っていないぞ。

 だから嘘は言っていない。


「それでちょい相談したいんだ。大丈夫か」


「まさかパソコンを修理しろとかテレビが壊れたとかじゃ無いだろうなあ」

「大丈夫、本当に工作の方だ」

 と言って、ついでに気になったので聞いてみる。


「何かそんなトラウマでもあるのか」

「色々な。電子工作が得意というと、やれパソコンが壊れたとかテレビの配線がわからないとか頼まれたりするんだ。こっちは便利屋じゃ無いぞと。そのくせ直しても言葉で礼言うくらいで済ますのに、いざ直らないとこっちが壊したみたいに文句を言われるんだ」


「それは不幸だな」

「こっちは魔法使いじゃ無い。そんな壊れた代物を一目見て治せる訳ないだろう」

 相手は正に魔法使いなのだが、それは流石に言えない。


「それじゃ放課後頼む」

「OK」

 という訳で、取り敢えず約束を取り付けることには成功した。


 ◇◇◇


 放課後。

 栗平もついてこないかと思ったが大丈夫だった。

 そんな訳で僕は春日野を特別教室棟の方へ案内する。


「何か随分奥地にいるんだな。一体何処にいるんだ」

「もうすぐだ」

 何せどこで魔女が接触してくるか僕もわからないのだ。

 わからないままに歩いている。

 そしてもう特別科棟も終わりそうなところで。


「ごめん。遅くなった」

 波都季さんが現れた。

 瞬間移動魔法で。


「えっ、今……」

 何も無い処から出たよな、と春日野が僕に目で訴えている。

 気持ちはもっともだ。

 でもまだ僕はそれを肯定していいかわからない。


「すまん、春日野君。話は正樹……柿生君から聞いている。それで早速だが、これからある物を見て感想を言って欲しい。そこで皆待っている」


 今の台詞からすると舞香さんチェックは問題無かった模様だ。

 なので聞いてみる。


「他の皆さんは?」


「春日野君の性格と嗜好からして、開発室に直接案内して感想を聞いた方が早い。そう舞香が判断した」

 そう言って波都季さんはポケットからバッチを取り出す。

 僕がしているのと同じ奴だ。


「これを制服の襟にでもつけて欲しい。通行証代わりになる」

「おい柿生、どこへ連れて行く気だ一体」


 そうだよな、何も肝心なところを聞いていないものな。

 でも僕はまだ色々口外していいかわからない。


「大丈夫。ある機械等の開発室、僕も良く行き来している場所だ。ほれ」

 代わりに襟につけたバッチを見せる。


「わかった。取り敢えず信じる」

 春日野も襟にバッチをつけた。

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