第53話 春日野君拉致計画
「頼みがある」
そう言って杏さんは僕に頭を下げる。
「そんな頭を下げないで下さい。それで何ですか、頼みって」
「実は魔法杖等の今後の開発について。今まで魔道書等古い書物や言い伝えを中心に色々試作をしていたのだが上手く行かなかった。新しい知識なり方法論なりが必要。今回の杖の開発でしみじみ感じた。
そこで。私にラジオ等電気を使う工作について教えて欲しい」
そう来たか。
確かに杖の時にはアンテナの知識が役に立った。
でも問題がある。
「実は僕はそこまで詳しくないですよ。アンテナの件も単に聞きかじって知っていただけで。本格的な電子工作の知識は無いです」
「なら解説書か入門書を教えて欲しい」
うん、それなら誰かに聞いて……
そう思って気づく。
僕より適任者がいる事に。
「普通科の友人で、その点では僕より詳しいのがいます。奴をここに連れてきた方が僕の何倍も役に立つ筈です。実際に色々作っている分知識も腕も確かですし」
僕の脳裏に浮かんだのはクラスメイトの春日野だ。
奴は性格的に問題無いし電子工作の腕も確か。
この前は安物デジタルアンプを改造していたしな。
「うーん。そういう人がいれば助かるのは確か。でもこの場所は特殊だから大丈夫かどうか調べる必要がある」
「なら簡単だ、調べればいい。舞香あたりに頼んでな」
千歳先輩が話に加わった。
「舞香の能力なら安全かどうかもわかるだろう。判定して貰った上でOKなら、正樹に口説いてもらえばいい。何ならこの場所を秘密にして、行き帰りは波都季あたりに頼んでもいい。
強いて言えば問題は魔法杖を知る人間が1人増える事。でもその辺は多分大丈夫だと思う。歩美に一応確認させるけれど。
それでいいな会長」
千歳先輩は誰もいない方にそう呼びかける。
「あれ、何故わかったのですか」
外見小学生が現れた。
「あまり正樹の戻りがおそいようならかっさらうつもりだったんだろう。悪いがそのくらいの空間変異は勘でわかるんだ」
「うむむ、なかなかやるのです。でもまあ今の問題はそこじゃないのです。そんな訳で舞香と波都季を連れてきて相談なのです。ちょっと待つのです」
そんな訳で30秒後。
舞香さんと波都季さんが現れた。
「こんちわー。何か新人誘拐会議を開催すると聞いてやってきました」
波都季さん、開口一番酷い事を言っている。
「概ねそんなところだがな。まあ座ってくれ」
という訳で、会議用の机のところ僕と杏さん、紬さんも含む6人で席について。
「実は今回の杖の件で、研究に新しい方法論を取り入れたいという事になった。それで電子工作に造型がある奴を1人スカウトしたい。それで人物的に引っ張ってもいいものか、大丈夫ならどうやって手を出すか。それについて相談したい」
「そのスカウトしたい人ってどなたですか」
舞香さんが尋ねる。
「僕のクラスメイトで、春日野という奴です。1年A組で、席は僕の前」
「わかりました。今確定できました。現在位置第1工作室。電子工作部に仮入部中。この人でいいですね」
「そいつです」
凄いな。
どういう魔法なんだろう。
知識とは言っていたけれど、これではまるでレーダーだ。
「そうですね。直接会ってみないと確定は出来ないです。でも恐らく性格的な問題は無いでしょう。ここの秘密も守ってくれると思います。ただ少し注意力散漫なところがあるのでそこだけ注意ですね」
そんな訳で。
勧誘は明日の放課後に決定となった。
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