第51話 副学園長の要請
彼女は調整しては構えて、調整しては構えてを繰り返して。
そして小さく頷いた。
「この杖を作成したのはどなた。原理とか設計ではなく、純粋に制作した方は」
「私です」
杏さんが小さく手をあげる。
「それでは1つ質問。材料が揃っている場合、この杖と同じ物を作るのにどれ位時間がかかるかしら。魔法を使っても構わないし、何なら魔法をこの杖を使っても強化しても構わないわ」
杏さんが少し考えて答える。
「材料が揃っていて、その杖を使えるなら10分程度です」
「ここで作れる?」
「大丈夫です」
「ならお願い。材料は今用意するわ」
足柄副学園長はそう言うと、目を閉じて右手を下に伸ばして掌を大きく開く。
「………………」
呪文らしいものを唱えたようだが、僕にはよく聞き取れない。
そして。
下ろしていたてをすーっと上に上げながら手を握り。
そして握った拳を机の上目がけて何かを投げつけるように振りつつ開く。
テーブルの上に今まで無かったものが現れた。
塩ビパイプ3本、銅線3巻、ビニールテープ、大きいプラスチック板。
「それではこの杖と同じ物を3本お願いします。魔力が足りなくなったら遠慮無く言って下さい。サポートします。それでは至急、作業にかかって下さい」
「はい」
杏さんが完成品の方の杖を手に取った。
ダイヤルを回して調整を始める。
「さて、作業中の時間を使って皆さんに状況を説明するわ。
まずこの杖。開発したのが誰かに関係なくとんでもない代物よ。
本物の魔法の杖は今では評議会が死蔵している遺物が数本だけの状況。
でもその中の数本を試した事がある私から見ても、この杖の方が使い勝手は上よ。何より調整次第で数多くの魔法使いに適応することが出来るのがポイントね。遺物の杖は適応者でなければ使えた物じゃないし。
ただ、その分危険な代物でもある訳。評議会のお偉いさんは頭が古いから、下手するとこの杖も認めてくれるどころか存在抹消を望むかもしれない。
そうさせない為にね、色々と手を打つ必要があるの。まあその辺は私達大人のお仕事なんだけれどね。今3本杖を作って貰っているのもその手段のひとつ。
それで、あっ、ちょっと待ってね」
足柄副学園長はすっと右手を伸ばし、杏さんの額に当てる。
「魔力が足りなくなる前に言ってね。補助魔法は私の得意とするところですから」
「はい、ありがとうございます」
杏さんが魔法切れを起こしかけていたらしい。
「さて。ここからは大変申し訳ないお願いになるのだけれども。出来るだけ早くこの杖を量産出来るように各方面を納得させます。だからそれまでの間は最初の試作品1本で我慢して。
勿論そんなに長い間我慢しろとは言わない。2週間で決着をつけるつもり。だからそれまでは杖1本で面倒だけれど、何とか我慢してね。
それにこの場にいる人以外には、当分の間この杖の事は口外禁止。まあ知識魔法の持ち主や深層思考までだだ読みしてしまう魔法使いもいるけれどね。取り敢えず話を広めないようにお願いします。
あと杖1本は残して使えるようにはするけれど、取り敢えず学校外では使わないでね。こっそり外にチョコ飲料買いに行ったりとかは厳禁。お願いね」
「しいましぇん」
会長、それは反省しているのかしていないのか。
色々な意味で大物だな。とりあえず。
「そんな訳で、OKが出るまでに守って欲しいのは次の3つね
1 魔法杖はこの1本だけで量産しない事
2 魔法杖を使って外に出ない事
3 魔法杖の事をこれ以上広めない事
ただ、この原理を使って別の装置を試したりするのは問題無いわ。禁止するのはあくまで杖として持ち運び出来る形態だけという事で。
さて杏さん、お疲れ様でした。まだ20年生きていないと思えない程こなれた物質加工・変性魔法でした」
全く同じ形の杖が3本出来ていた。
なお杏さんはまた額に手を当てて貰って回復中。
そして。
「それではお願いしますね。2週間以上は待たせませんから」
そう足柄副学園長は言って。
軽く一礼して姿を消した。
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