第22話 まだ僕は被害者です
でもあの質問。
きっとその先がある。
僕が見られて怖いと思うその先が。
確かに僕にとってそれらの事実を知られる事は怖い。
その事によって相手がどう感じるかも怖い。
でも。
相手の方はどうなんだろうか。
僕はあくまでその相手の思いを想像するだけ。
怖いと勝手に思うだけ。
一方で表層思考等を読めてしまった方は。
相手の思考を想像ではなく現実で知ってしまう訳だ。
幻滅もするし嫌悪感も抱くだろう。
しかも。
彼女が読めるのは僕だけではない。
もっと多くの人々の表層思考を読めるし、現に読んだ経験もあるだろう。
それだけ遙かに傷ついたりもしているだろう。
ならばきっと。
本当に怖い思いをしたり傷ついたりするのは読まれた方ではない。
きっと読んでしまった方だ。
その視点まで考えるならば。
「避けるか、それとも逃げるか?
それはきっと読まれた方の回答では無いのでしょうね」
僕はそう答える。
それを考えるのは、感じるのは読んでしまった方の対応で権利だろう。
そう思ったから。
明里さんは小さく頷いた。
「怖い答だ。でもそれならこの眼鏡はもういらない」
明里さんはそう言って僕に眼鏡を渡す。
「それは実際は単なる伊達眼鏡。度も入っていないし魔法効果も無い」
渡されたので色々見たり観察したりしてみる。
魔法効果は不明だが確かに度は入っていない。
「この眼鏡の効果はこのデザイン。この眼鏡をかけている限り、私はあの眼鏡の人くらいの印象で済む。その奥の表情までいちいち観察されなくて済む。つまりはまあ、そういった武装。
今でも始めて会う相手がいる時は手放せない。そういう意味での私の弱さ。
でも正樹君相手には必要ないのがわかった」
そう言って彼女は眼鏡を僕から受け取って。
そのまま胸ポケットに仕舞う。
「お、早くも明里の眼鏡を外したか」
背後から声がした。
波都季さんだ。
彼女はそのまま先生がいなくなって空いた場所に座る。
「我ながら社交的になったものだ」
明里さんが冗談めかした口調で波都季さんに返す。
「そして私はさっきから無視されているのですよ」
これは会長だ。
「無視じゃありません。単に明里さんと話をしていただけです。それにあの流言飛語の類いは何なんですか。少しは控えて下さい」
「うーんいけず。一緒にお風呂にも入った仲なのにですよ」
「あれは会長が男湯とわかった上で入ってきたのでしょうが。頼むから誤解されるような事は止めて下さい。あと山梨県条例違反ですから」
「えーん、正樹がいじめるー」
わざとらしい泣き真似をして、そして会長は立ち上がる。
「そんな訳で私は傷心のためしばらく旅に出るのです。しばらく1人にしておいて下さい、まる、なのです」
そう言って。
すっと会長の姿が消えた。
何か起こったかと思ったが、考えれば会長は空間系魔法の使い手。
だから単に魔法で移動しただけだろう。
「うーん、どこまで冗談だかわかりやしない」
「でも会長は会長なりに色々考えているんだよ、ああ見えても」
波都季さんの言葉に明里さんも頷く。
でも。
「そんな気も気配くらいはするんですけれどね。今のところ、僕はまだ一方的な被害者なので」
「確かに」
波都季さんだけで無く明里さんまで苦笑した。
会長の言動等は皆様色々御存知の模様だ。
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