第18話 山梨県条例違反

 風呂は1階にあった。

 ちゃんと『男子』と『女子』ののれんも出ている。

 かなり煤けた感じの暖簾だけれども。


 中へ入ると印象が変わった。

 それほど広くは無いけれどちゃんとした宿の風呂だ。

 浴槽も3人くらいは入れるだろう。

 作りもそこそこいい感じ。

 自然石とかを使っていて。


 ここは元々はホテルか何かだったのだろう。

 それを何処かの会社が買い取って保養所として使い、更にうちの学校が使って。

 そんな感じでホテルだった頃の名残が少し感じられる。


 取り敢えず身体を洗って浴槽の温度を確かめて。

 ちょっと熱めだったのでガンガンに水を入れる。

 僕はぬるい方が好きだから。

 どうせ先生が入るのは大分後。

 だから僕の好みにあわせていいだろう。


 そんな訳で大量のお湯を無駄に流しながら適温まで下げて。

 まったりと風呂に浸かる。


 うん、悪くない。

 気分だけはちょっといい旅館に来た気になれる。

 アメニティ等は何も無いけれど。

 そんな感じで気分良く浸かっていた時だった。


「失礼するですよ」

 ん、女性用の風呂からの声にしては近いな。

 そう思ったら。

 堂々と会長がこっちの風呂場に入ってきた。

 当然、全裸だ。


「こっちは男湯ですけれど」

 外に視線をやったままそう文句を告げる。

 さすがに直視する度胸は無い。


「小学生は男湯に入っても問題無いのですよ」

 そう来たか。

 でもその認識、実は甘い。


「山梨県の県条例では9歳以下までです。神奈川県では11歳以下ですが」

 前に何かの豆知識で読んだ。

 役に立つ機械があるとは思わなかったけれど。


「そんな訳で会長は範囲外です。それに外見はどうであれ実際の年齢は高3相当。女湯に退去願います」


「あっちは人が多くて狭いのです。風呂そのものはこっちより広いけれど、6人入ると充分狭いのです。それに私は身体的には10歳で性欲もそれ相応。だから全然問題無いのです」


 おいおいおい。

 この状態で性欲なんて言葉まで使うか。

 そうでなくともこっちはかなりダメージ食っているのに。

 大体他の皆様に知られたらどう言い訳すればいいんだ。


 仕方ない。

 ここで必要なのは考え方の転換だ。

 むしろ積極的に広報して対処願おう。

「女子の皆様聞こえますか。こちらは男湯です。会長の闖入で困っています。着衣の上、捕縛をお願い致したく存じます」


 天井が繋がっているから聞こえる筈だ。


「無理だ、諦めろ」

「会長は小さい上に空間操作魔法が得意なので捕縛は困難です。どうしてもと言うなら魔法研究会執行部及び有志を招集。人数任せでそちらで捕縛作戦を展開する事になります。それをお望みでしょうか」


 麻里副会長と舞香さんの返答が返ってきた。

 僕としては残念な回答。

 ただ言いたい事は良くわかった。


「了解。僕が撤退します」


「甘いな、正樹」

 ふふふふふと不敵に笑う会長。


「ここで風呂から出たら、私は正樹の見える部位の全てを観察し尽くすぞ。前から後からな」


「性欲が無いって言ったじゃ無いですか」

「甘い。性欲は無いが知識欲はある。何せやりたい盛りの女子高生だからな」


「言っていることが色々矛盾しています」

「その矛盾の中にこそ真実は存在するのだよ」

「何もっともらしい事を言っているんですか!」

 酷い、酷すぎる。

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