第16話 白くてボロな保養所

 特別科の寮は僕ら一般学生の寮と全く違う場所にあった。

 専門教室棟の更に先にある大学施設と思っていた建物の更に向こう側。

 普段意識した事の全く無いあたりだ。


 そしてそこで待っていた数も予想外。

 課外で準備室にいたのは多くても7人。

 でも寮の前で待っている生徒、ぱっと見には20人近くいるような気がする。

 中には波都季先輩や舞夏先輩の顔も見える。

 だからこの集団、合宿参加者で間違いでは無いとは思うけれど。


 バスが停まると同時に横と後ろの扉が開かれて。

 女子生徒がわらわらという感じに乗り込んできた。


「こんなに人数多いんですか」

 聞いていないよというニュアンスを言外に込めて会長に尋ねる。


「今回は結構多いな。幽霊部員でも合宿だけは参加するのがいる。他にも正樹以外に1年生の新人2人が参加表明したしな。あと2名多ければバスを2往復させるところだった」


「そういう事態は出来るだけ避けてくれ。面倒だ」

 前から先生がそう言っている。


「それでも先生には感謝しているのですよ。他の先生はバス運転までして付き合ってくれたりはしませんから」


「タチの悪い生徒の受け持ちが長いからな。使い処の無い技能が色々増えちまう」


 なるほど。

 それなりに面倒見がいい先生だったりする訳か。


 後方の電動リフターから車椅子の女子生徒1人が乗車して全員乗車。

 補助席までいくつか使っている状態になる。

 車が走り出すとともに助手席に座った沙霧さんがマイクを取った。


「皆様、本日は魔法研究会の新人歓迎合宿に参加いただきましてありがとうございます。今回案内を務めさせていただきます和泉沙霧でございます。今年1年間、合宿担当委員を務めさせていただきますのよよろしくお願い致します。


 なお車はこの先スーパーセルパ、業務用スーパーで買いだしした後、いつもの浅間工業大学山中湖コテージへ向かう予定で御座います。それでは2泊3日の短い期間で御座いますが、皆様ご協力の程よろしくお願い致します。


 まずはスーパーセルパ開発団地店に到着です。買い出し担当の方以外はしばしの間、バス内にてお待ち下さいませ」


 マイクロバスはスーパーの駐車場へと入っていく。


 ◇◇◇


 スーパーでの買い出し2箇所の後。

 バスは坂道をひたすら登って峠を越え、山梨県に入り。

 わりとあっさり目的地らしき処に到着した。


 建物は正に古い保養所という作り。

 白色コンクリ作りの一見3階建てだ。

 玄関前にバスを横付けする。

 会長がなかなか動かないので僕が出るのは最後になった。

 だから最後にマイクロバスの扉を閉め、そして中へ。


 中は保養所というか古いホテルというかそんな作り。

 入ってすぐにロビーにカウンターのような場所もあるが誰もいない。

 そして微妙な匂いが。


「何か焦げ臭くないですか」

「ああ、あれは魔法で掃除した結果だ。掃除というか、要はホコリを燃やすという魔法だからな」


 なるほど。

 確かにホコリは見当たらない。


「それで部屋割りとかはどうなっているんですか」

「正樹の部屋はこっちだ。案内しよう」

 先輩がそう言って先に歩き始める。


「エレベーターがあるけれど点検していないから動かない。そんな訳で階段オンリーだな」


「さっきの車椅子の子は大丈夫なんですか」

「真紀の事なら心配いらない。あれを見ろ」

 ロビーの端に車椅子が置いてある。


「真紀は魔法を使えば車椅子が無くても移動可能なんだ。ただ一般人に見られそうなところは出来るだけ車椅子を使うようにしているだけだな」


 なるほど、了解だ。

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