第10話 足抜けは御法度

 ただ。

 この面子自体はなかなか面白そうではある。

 先輩と言ってもかなり気楽な感じだし。

 人そのものも決して悪くはなさそうだ。


「わかりましたよ。入部します。ただ4月中はまだ仮入部ですけれどね」


「大丈夫だ。足抜けは許さん」


 これまた古い表現を。

 どこかの忍者じゃないんだから。

 でもまあ念の為聞いておこう。


「参考までに足抜けしたらどうなるんですか」


 生田先輩が一言だけ呟く。

「魔女の呪い」


 僕は理解した。

 これは抜けられない。


「そんな訳で、君はたった今からここの会員だ。宜しくな、正樹」


 ん?正樹?名前呼び?


「ここは基本的に皆名前で呼び合っているんです。特に先輩後輩関係なく。まあ会長は静音さんと呼ぶより会長と言う方が多いですけれど」


 玉川先輩、この場合は舞香さんか、がそう説明する。

 うーん。

 異性を名前で呼ぶとは微妙に恥ずかしいな。

 そんな経験は無かったし。

 というかそもそも親と先生以外の異性と話した時間なんてきっと極小に近いぞ。

 悲しいけれど。

 と考えて、また質問を思いつく。


「そう言えばここ、男性の部員はいないんですか?」


「現在のM組、1年から3年まで全員女子」


 ん?

 という事は必然的に。


「宜しくお願いね、お兄ちゃん」


 すかさず会長から攻撃が入った。

 結構ダメージが来た感じ。

 それでも何とか言い返す。


「会長の方が年上でしょうが」


「ふっふっふっ。なら少し攻撃を変えようか。何を隠そう世の中にはロリババアというジャンルもあるのじゃよ」


「何のジャンルですかそれは」

 知っているけれどここは当然知らんふりするべきだろう。


「知らずば教えてしんぜよう。どれ、ちょっと服を脱げ」

 おいおいおい。


「何を考えているんですか。ここは学校ですよ」


「私小学生だからわかんなーい」

 会長はわざとらしくポーズを取るがちょっと古い。


「小学生がどういう単語を使っているんですか」


「女の子は耳年増」


「だから!」


 というところで。

 鶴川先輩、いや波都季さんがちょいちょいと僕の腕を指でつつく。


「言いたくはないが誰よりも会長に馴染んでいるぞ。こういう芸風だったんだな」


「違います!」


 そして会長はますます調子に乗る。


「諦めて身体を任せろ。嫌だ嫌だも好きのうち。痛いのははじめだけ……」


「だからそれはいいですから!」


 確かにイタい。

 痛覚的な意味ではないけれど。


 そんな訳で。

 入学式の後わずか1日で。

 僕の高校生活は思ってもみなかった方向に。

 全速力で大暴走を始めてしまったのだった。

 ちーん。

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