第9話 会長の横暴

「話というのは簡単だ。柿生正樹よ、我が軍門に下るがよい」


「このクラブに入ってくれませんか、という意味」

 会長の台詞を副会長の生田先輩が翻訳する。


「会長はいつもこんな感じの口調なんですか」


「そうでもないです。飽きたら普通の口調に戻ります」

 玉川先輩があっさりそう教えてくれた。


 まあ何となくノリはわかったかな、という事で。

 ちょっと気になる事を含め質問を開始。


「でもこの魔法研究会はM組専用の課外活動ですよね。僕のような普通科生は入れないんじゃ無いですか」


「規則は『M組以外に公表しない』であって『M組以外参加出来ない』では無い。よって勝手に見つけて加入する分には無問題」

 生田先輩の説明。


「でも僕は魔法を使えませんよ」


「魔法を使う事が研究会の目的では無いですわ。だから何も問題はありませんよ」

 これは向ヶ丘先輩だ。


「ではどんな活動なんですか」


「それは秘密だ。知らぬ方が後で何かと楽しいであろう」

 会長がそうわざとらしく言った直後。


「まあここでお茶を飲んだり雑談したり、親睦を深めるのが本来の目的だな。魔法使いは単独派が多いんで、ちょっとは仲良くやろうや、そんな感じでさ」

 鶴川先輩があっさり説明。


「うぬぬ、何故会長たる我が言説を無視する」


「話が進まないから」

 これは生田先輩。


 皆、会長に容赦無い。

 どうもそれも日常の風景のようだ。

 何か笑える。


 そして会長、一度ぐったりしたような姿勢をした後。


「だが柿生正樹よ。実は貴様にはもう選択肢は無い。我が軍門に下らなければだ、永遠に魔女の呪いを受ける事になろう」


 何だ魔女の呪いって。

 どうせ下らない事だろうと思いつつ聞いてみる。


「参考までに、魔女の呪いって何ですか」


「聞きたいか」

 金髪幼女がにやりと嗤う。


「簡単なことよ。授業前、昼休み、授業終了直後の放課後。吾輩自ら貴様につきまとってくれようぞ。

 上目遣いで

『お兄ちゃん、一緒に行こ』

とか

『お兄ちゃん、今日こそは静音に付き合ってね』

と言いながらな。

 普通科の男子が多い教室でやったら、さぞかし貴様の立場が辛くなるだろうな」


 うっ。

 考えるだにこれは厳しい攻撃。

 魔女の呪いにふさわしいエグい仕業と言わざるを得ない。

 人でなしというか鬼というか。

 まあ魔女なんだけれど。


「誰かそれを止めてくれる人はいないですか」


 一縷の望みをかけて聞いてみる。

 全員が首を横に振った。


「無理だ、諦めろ」


 副会長様から有り難くない宣告。

 鶴川先輩がため息をついて追加説明する。


「会長の魔法は僕と同じ時空間操作なんだ。短距離なら異空間移動も高速移動も使える。そして僕より小さくて慣性質量が小さい分動きが速い。

 つまり根本的に動けなくしない限り、止めるのは無理だ」


「最悪の場合は言って下さいね。私の魔法で完全焼却致しますわ。約6000度の高熱で骨どころか魂まで痕跡残さず」


 向ヶ丘先輩がとんでもない提案。


「そこまではしなくていいです」


 流石に殺人の完全犯罪までは僕も望まない。

 つまり、詰んだ。

 がっくり、という感じだ。

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