第5話 魔法使いの課外活動

「ところでここで先輩達は2人で何をしているんですか」


 紅茶を飲みながら何となく聞いてみる。


「いや、ここは本当は課外活動なんだ。先輩達が3年になってしまったからさ、今日は2年2人で細々営業中という訳だ」


「3年生は今日はお休みで、1年生はまだ入っていないですから。幽霊部員も多いですしね」


 なるほど。


「それで何の活動なんですか」

 僕がそう聞いた直後。

 2人が一瞬だけ目を見合わせた。


「他の呼び名もあるけれど、正式には『魔法研究会』だな。ただ普通科の一般生徒の案内には載っていないぞ。一応公認だが基本M組の生徒だけでやっているからな」


「それが何故ここでやっているんですか」


「魔術には色々な微量元素や薬品等を必要とするものも多いのです。ですから薬品が揃っているこの部屋が何かと便利という訳です」


 そういう訳か。

 辻褄はあっている。


「でも今まで聞いた話から考えると、この学校の生徒も高学年になればM組なり魔法なりに興味を持ったりするような気もしますけれど」


「残念だが基本的には普通科と特別科の交流は無いんだ。これはどちらかというと特別科の方の事情でさ。特別科は母国だの地元だので迫害されたりいじめを受けたりした連中が多いんだ。周りと違う力を持っているが故にさ。

 だから基本的にM組の連中うちのクラス、他と交流がありそうな場所に姿を出さない。一般人に存在を知られるのが怖くてさ。

 つまり普通科と特別科との交流はほとんど無い訳だ。高校でも大学でも。特別科の作る魔法応用の機器とかも普通科には基本的にブラックボックス扱いさ」


 それは何となく理解出来る。

 何せ僕の地元でも、ちょっと勉強が出来るくらいでガリ勉扱いだ。

 面倒なので相手にしていなかったけれど。


 でも。

「それなら何故僕にこうやって色々話しているんですか」

 それが不思議だ。


「僕はあまり一般学生に抵抗がない方でさ。でも念の為に舞香に一応確認した。舞香は『知ろうと思う事を知る事が出来る』魔法使いだからさ。それで問題無いとわかったんでこうやって事情を説明したりしている訳だ」


 これは鶴川先輩が答えてくれた。

 そう言えば先輩、誰もいない上空に何かを言ったり聞いたりしていたな。


「とすると、鶴川先輩の魔法ってどんな魔法なんですか」


「時空間関係だな。時間移動は出来ないけれど、時間の流れに少しだけ逆らう事で高速移動したり、近場なら別空間経由で移動したり。空間を短絡して声を届けたりなんて応用技も出来る。まあそんな微妙に色々使い道が難しい魔法だ」


「ドアの鍵を忘れた時には便利ですけれどね」


 なるほど。

 でも空間関係というと思い当たる事が。


「だからあの時僕を引っ張り戻したり出来たんですね」


「ああ。あれこそ専門に近い分野だからな」


 うんうん。

 何か常識と全く違う話をしているのに何か自然だし納得出来る。

 最初のうちは確かにあった疑いの気持ちが大分小さくなった。

 これがまあ実在する魔法使いという訳か。

 常識と全く違う事が出来るけれどごくごく日常な存在。

 そんな感じだ。


「そんな訳で会う機会はなかなかないと思うけれどな。同じ学校だし宜しく頼むわ」

「私も宜しくお願いします」


 そう何か挨拶されてしまったので。


「こちらこそ宜しくお願いします」

 僕もそう頭を下げたのだった。

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