第4話 種も仕掛けもありません
「もし何でしたら他のカードも当てましょうか。選んでみてくれますか」
僕は今度こそ見えないよう、左手で隠しながら確認した。
「いいですよ」
「スペード2」
今度もあっている。
「折角ですからサービスしましょう。私が柿生君から見て右端から順にカードの記号と番号を言うので確認して下さい。行きますよ。
ハート3、スペードのエース、ハート7、ハートクイーン、スペード2、クラブジャック、ジョーカー、ダイヤキング、ダイヤ10、ハート5ですね」
言われるままにカードをめくる。
さっきのカードを戻したものを含め全部あっていた。
玉川先輩は椅子を回してこっちを向く。
「さて問題です。今の手品、どんな種を使ったでしょう」
「わかりません」
僕は素直に答える。
少なくとも僕には思いつかない。
最初にあれだけカードを切っていれば順番を故意にセットするのは不可能だろう。
しかもどれをめくるかまではわからない。
カメラも何も無さそうだし。
玉川先輩は僕のその返答に大きく頷いた。
「正解です。わかる筈がありません。今のは種も仕掛けもないのですから。
私が使ったのは魔法というものです。知ろうと思った事を知る事が出来る魔法。
特別科は校内ではM組と呼ばれています。何のMかはもうおわかりですね」
僕は頷く。
手品の英訳はMagic。
そしてMagicの日本語訳は魔術とも訳せる。
どっちにしろ頭文字はMだ。
勿論常識では仕掛けや種なしで今のような事をするのは不可能。
でも取り敢えず今の段階では認めるしかあるまい。
今度は鶴川先輩が口を開く。
「魔法使いとか超人とか陰陽師とか超能力者とか。そのうちの一部は本当に物理法則を超越する力を持っていたんだ。それを隠れた存在から表側に引っ張りだそうとしたのがこの学校なり大学、そしてこの研究団地さ。
富士の麓という魔力的な力に満ちたところに研究機関を立て、協力企業に対価を与えつつ協力を求める。そして魔術を使用した技術で成果を出して存在を認めさせる。
それが富士浅間研究開発団地であり、浅間工業大学、そしてこの高校の正体さ」
言っている事は突拍子もない。
でも今の僕には色々と納得出来るような気がする。
少なくとも言っている事と色々な事実が符合している。
「ちなみにさっき柿生君の巻き込まれた空間軸の異常。あれは大学なり企業研究なりの副産物のようなものです。
まだ未知な部分が多い魔法という技術を使用しているので、どうしても失敗なり予期せぬ副作用なりが生じたりします。
大体は私達M組有志なり専門教官なり担当者なりが対応して人的被害が及ぶ前に始末するのですけれど。
柿生君の場合はかなり運が悪かったのですね。波都季が始末する前に引っかかってしまった訳です」
「済まなかったな、そういう訳だ」
なるほど。
でも。
「結局は助けて貰ったのですから、こちらがお礼を言うべきでしょう。ありがとうございます」
僕はそう思う。
先輩達に非があった訳じゃ無いし。
「そう受け取っていただくと助かります」
玉川先輩がそう言って微笑んだ。
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