第2話 白い女子生徒と準備室

 ふっと。

 視界が元に戻る。

 気づくと風に揺れる木々の音も生徒のざわめきらしい声も。


 そして僕の目の前には女の子。

 バッチからすると2年生。

 僕より高い身長、栗色の髪をポニーテールにしている。


「よ、危なかったな。精神的には大丈夫か」


「今のは?」


「聞き返せるという事は大丈夫だな」


 彼女はにいっと笑った。

 僕より大きいけれど顔は可愛い感じだ。

 目が大きくてちょっと印象的。


「ちょっと空間の軸がズレたところに入っただけだ。後遺症とかは何も無い筈。まあそんなにある事じゃ無いから心配するな」


 そう言われても……

 ちょっと色々整理がつかない。

 理解出来ない。


「何なら説明してやるよ。僕よりもう少しアタマのいい奴が。でもその前にだ。そろそろ手を離してくれないか」


 あ、そう言えば……

 思いっきり右手が彼女の右手を握りしめていた。

 急に触れていた部分を熱く感じてしまう。

 僕は慌てて手を離した。


「すみません。色々」


「なあに、しょうがないさ。あんな事態馴れている奴なんて滅多にいない」


 彼女はなんでも無い事のように言う。

 でも僕はちょっと……


 正直赤面していないかどうか気になる。

 この前に女の子の手を握ったのは何時になるだろう。

 中学校のフォークダンスの時は駄目だったから、下手すれば小学校時代だ。

 それもきっと低学年。


 そんなこんなでちょっとどきまぎしている僕と関係なく。

 彼女は何もない右上方向を見る。


「そういう訳だ。そっちに連れて行くけれどいいな、舞香マイカ


 そっちには建物も何も無いような気がするんだけれど……

 でも確かに返事を聞いたように彼女は頷いて。

 そして僕の方を見る。


「さあ、なら行こうか。ここの2階だ」


◇◇◇


 特別教室棟2階。

 物理・化学準備室と書かれた扉を彼女はノックもせず開ける。


 中は典型的な理科系の準備室。

 薬品棚や器具棚、薬品用らしい巨大冷蔵庫に実験用のダクト付きスペース。

 中央にある洗い場付きの大きい机。


 そしてその奥に1人の女子生徒が座っていた。

 印象は、白。

 銀色に近い長髪と日本人では無い白い肌。

 整った顔立ちに色の薄い灰色の瞳。

 少し人形めいた印象もある。


「いらっしゃいませ。この場合は初めましてですかね。柿生君」


「あ、どうも初めまして」

 とっさに返答してから僕は気づく。

 まだ僕、名前を名乗っていないよな。

 この白い女子生徒は勿論僕を助けてくれた彼女にも。


 一緒にいた彼女はそれに気づいたのか。

「舞香、自己紹介まだ」


 白い女子生徒はあらっ、という顔をする。

「あらあらそうでしたね。これは失礼を」


「こういう奴だから気にするなよ」

 何がこういう奴なんだろう。

 色々と訳がわからない。

 それこそさっきの空間と同じくらいに。


「それでは説明ついでにお茶にしましょう。今日は他に来る予定はありませんからゆっくりと。柿生君も特に予定はありませんね」

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