第4話 ニワトリ星人

 地球上から牛肉料理が消えてから数日後。


「また次の宇宙人が来たって?」


 ぼさぼさ頭がトレードマークな日本国内閣総理大臣はまた嬉しそうに訊いた。

 突如、東京上空を覆い尽くす程の超巨大な未確認飛行物体出現の報を閣議中に受けた彼は、緊急に国会をまたまた閉会して対策本部を立てた。

 そして、席に着いた彼の元へやってきた官房長官から最初に届いた報せに心を躍らせた。


「不老、良いよね不老。

 これ、年齢も調整出来るから20代まで若返っちゃったよ俺。

 息子のヤツ呆れていたけど、これで私の政治は更に――

 どうした? その、浮かない顔をして」

「実は……」

「何を勿体ぶってるのだ。何か問題でもあるのか?」


 ちょっと不満げな顔をする総理は、話の続きを訊いた。


「今度の異星知的生命体は、ニワトリ星人です」

「な、なんだって――っ!?」

「誰だ、MMRの連中をまた官邸に入れたのは? つまみ出せ!」



 数日後、異星知的生命体の代表は、世界各国の首脳と共に、世界同時中継による共同会見を行った。

 それは、先のニワトリ星人で一歩進化した、人類の次なるステージの始まりを意味していた。


(吾々は、ニワトリ星人だクックドゥルドゥー)


 自動翻訳機も使わず流暢に話すその日本語に、こいつらもかよ、ていうかこいつらの語尾は英語かよ、と会見に臨んだ各国の記者たちは心の中で同時に突っ込んだ。


(吾々は銀河連邦条約に基づき来訪したクックドゥルドゥー。

 既に訪問している吾らが同盟国、ウシ星の使者から話は聞いていると思うが、吾々は諸君らとの交流を望んでいるクックドゥルドゥー)

「彼らが用意した新たな英知は、心臓病の特効薬。

 これで人類は心臓病に悩まされる事が無くなるのだっ!」


 ニワトリ星人の隣にいた総理大臣のその言葉に、記者たちは、おー、と歓声でどよめいた。


(しかし、だクックドゥルドゥー)

「?」


 突然、険しい顔をするニワトリ星人に、隣で悦に浸っていた総理大臣や記者たちがきょとんとした。


(英知を授けるにあたり、一つ、問題点があるクックドゥルドゥー)

「な、何でしょう?」


 思わず声がうわずる総理大臣。


(――諸君らは、我が同胞を食材にしているではないかクックドゥルドゥー)

「え゛」

(ああ、なんと嘆かわしい事かクックドゥルドゥー!

 吾らが同胞ブタ星やウシ星が認めるほどの文明を持ちながら、他の星の知的生命体と同種の生命体を虐殺しその身を食している事実は、吾々の寛大な理性をもってしても受け入れがたいクックドゥルドゥー!

 吾々は諸君との交流を図る為の唯一の条件として、今後一切、吾らの同胞を虐殺しそれを食さない事を提言するクックドゥルドゥー!)

「な、なんだって――っ!?」

「誰だ、MMRの連中を性懲りもなくこの会見に呼んだのは? つまみ出せ!」



 衝撃的な会見から数日後、世間は大きく揺れた。

 彼らとの交流は、人類の文明の発展にとって大きな利益となる。

 鶏肉という食材と、心臓病の特効薬。

 人類は、どちらを選ぶべきかと論議を開始した。


「莫っ迦だなぁ、お前。鶏肉が食えなくなっても、食用カエルを食えば良いだけじゃないか。

 あれ、鶏肉と同じ食感と味なんだぜ」

「あっ、そっか。

 なんだ、アッタマ良いなお前、あははは♪」


 果たして、ニワトリ星人の要望はあまりにも呆気なく受け入れられた。

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