第3話 ウシ星人

 地球上から豚肉料理が消えてから数日後。


「次の宇宙人が来たって?」


 ぼさぼさ頭がトレードマークな日本国内閣総理大臣は嬉しそうに訊いた。

 突如、東京上空を覆い尽くす程の超巨大な未確認飛行物体出現の報を閣議中に受けた彼は、緊急に国会をまた閉会して対策本部を立てた。

 そして、席に着いた彼の元へやってきた官房長官から最初に届いた報せに心を躍らせた。


「あの件で私の国民支持率が高まったんだよな。

 そうだった、次々と訪問すると言ってたっけ。

 ふっふっふっ、彼らが訪れる度に私の政治は人々に支持されるようになるのだ。

 まさに彼らは私にとって幸運の女神よ」


 総理大臣は握り拳を作り、野心を憚らず口にするが、官房長官はそれを無視した。


「……どうした? その、浮かない顔をして」

「実は……」

「何を勿体ぶってるのだ。何か問題でもあるのか?」


 ちょっと不満げな顔をする総理は、話の続きを訊いた。


「今度の異星知的生命体は、ウシ星人です」

「な、なんだって――っ!?」

「誰だ、MMRの連中を官邸に入れたのは? つまみ出せ!」



 数日後、異星知的生命体の代表は、世界各国の首脳と共に、世界同時中継による共同会見を行った。

 それは、先のブタ星人で一歩進化した、人類の次なるステージの始まりを意味していた。


(吾々は、ウシ星人だモー)


 自動翻訳機も使わず流暢に話すその日本語に、こいつらもかよ、と会見に臨んだ各国の記者たちは心の中で同時に突っ込んだ。


(吾々は銀河連邦条約に基づき来訪したモー。

 既に訪問している吾らが同盟国、ブタ星の使者から話は聞いていると思うが、吾々は諸君らとの交流を望んでいるモー)

「彼らが用意した英知は、不老の特効薬。

 これで人類は老化に悩まされる事が無くなるのだっ!」


 ウシ星人の隣にいた総理大臣のその言葉に、記者たちは、おー、と歓声でどよめいた。


(しかし、だモー)

「?」


 突然、険しい顔をするウシ星人に、隣で悦に浸っていた総理大臣や記者たちがきょとんとした。


(英知を授けるにあたり、一つ、問題点があるモー)

「な、何でしょう?」


 思わず声がうわずる総理大臣。


(――諸君らは、我が同胞を食材にしているではないかモー)

「え゛」

(ああ、なんと嘆かわしい事かモー!

 吾らが同胞ブタ星が認めるほどの文明を持ちながら、他の星の知的生命体と同種の生命体を虐殺しその身を食している事実は、吾々の寛大な理性をもってしても受け入れがたいモー!

 吾々は諸君との交流を図る為の唯一の条件として、今後一切、吾らの同胞を虐殺し、それを食さない事を提言するモー!)

「な、なんだって――っ!?」

「誰だ、MMRの連中をまたこの会見に呼んだのは? つまみ出せ!」



 衝撃的な会見から数日後、世間は大きく揺れた。

 彼らとの交流は、人類の文明の発展にとって大きな利益となる。

 牛肉という食材と、不老の特効薬。

 人類は、どちらを選ぶべきかと論議を開始した。


「豚肉に続いて牛肉が食えなくなるなんてありえない!」

「でも、不老の特効薬があれば、今後未来、老化で苦しむ事はなくなるんだぞ」

「そんな事言ったって、それを受け入れたら、今後は折角の牛丼が食えなくなるじゃないか?」

「莫っ迦だなぁ、お前。

 牛丼が食えなくなっても、鶏肉を食えば良いだけじゃないか」

「あっ、そっか。

 なんだ、アッタマ良いなお前、あははは♪」


 果たして、ウシ星人の要望はあまりにも呆気なく受け入れられた。

 その結果、すべての牛丼屋が廃業する事となってしまうが、不老の特効薬に比べれば、と牛丼フリークたちからも仕方のないという声が挙がっていた。

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